WJTOG図書室 蔵書No.02

肺がんで療養される患者さん,ご家族へのアドバイス 編集 WJTOG広報部 (2003.5.12発行)


肺がんで療養されている患者さん,ご家族へのアドバイス

はじめに
 この記録は平成14年9月7日に岡崎市のせきれい会館においてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が主催した市民公開講座の討議録です.内容は平成14年9月7日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.また限られた情報と時間内での質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.

テーマ:がんで療養される患者さん,ご家族へのアドバイス
司会
県立愛知病院院長 有吉 寛
アドバイザー
東京都立豊島病院緩和ケア科医長
 向山雄人
県立愛知病院呼吸器科部長
 斉藤 博
静岡県立がんセンター呼吸器内科部長
 山本信之
大阪市立総合医療センター臨床腫瘍科
 武田晃司

質問内容別に以下のように分類しました.質問項目をクリックすると,質問に対する回答にジャンプします.

質問順 質問項目
1 タバコを50年吸っているのですが,今やめた方がいいのでしょうか?
2 ポリープはがんになりますか?
3 肥満はがんになりやすいのでしょうか?
4 年齢の若い人のがんは進行が早く,お年寄りのがんは進行が遅いのですか?
5 肺がんは絶対になおらないのでしょうか?
6 ご親切な他人が民間療法を勧めてくれていますが,どう対応したらよいですか?
7 PETは有用でしょうか?
8 食べてはいけないもの,日常生活で行うべきもの,日常生活で絶対に行ってはいけないものはありますか?
9 イレッサという薬が肺がんに対して認可されたということですが?
10 がんは遺伝しますか?
11 進行した肺がんの治療としてどのようなものがあるでしょうか?
12 小細胞肺がんで4コースの治療が終了し50%以上の縮小効果がありましたが,次回はどれくらいの期間をおいて治療をうけたらよいですか?
13 小細胞癌で今後再発しないようにする方法はありますか?
14 卵巣がん手術を受けた後,再発して抗癌剤治療を受けていますが,いつまで続けるのでしょうか?
15 消化器がん(胃がん,大腸がん),乳がんについて,手術後の抗癌剤治療について教えてください
16 普通,手術後にがんを抑える薬を7種類も使うことはないですね?
17 術後に抗がん剤を飲むべきかどうか,など患者さんから質問されるのですが,もし先生が質問されたらどのように対応されますか?
18 進行度に関して1,2,3とか1度,2度,3度とか尋ねられることがあるのですが.
19 アメリカではがん治療にはメディカルオンコロジスト(腫瘍内科医)が中心となってチーム医療が行われていますが日本の実態はどうなのでしょうか?
20 どの程度の痛みになったら積極的な緩和医療が必要でしょうか?
21 ブロック注射を続けた場合には,何か後遺症がありますか?
22 膵臓がんの術後に,食べ物がつかえる,消化液がうまくでないのか,つかえた感じがするのですが,どんな手当があるでしょうか?
23 胆嚢をとった影響が体にありますか?
24 緩和病棟への平均入院期間は30日ほどと書かれていましたが,移行の時期はこれぐらいが適当と思われますか?
25 スピリチュアルペインなどのケアは医師,看護師など誰でもやっておられるのですか.患者は誰に訴えたら解決してもらえるのでしょうか?
26 家族がホスピスに入院させたいが,患者にどのような声のかけ方がありますか?
27 患者さんに知らせずに家族が緩和医療のみを選択した場合,家族は自責の念に駆られますが,きちんと本人にも話して決めるべきなのでしょうか?
28 医者とのコミュニケーションができてないことに由来する質問
29 アガリスクを含めて民間療法でがんが治ったというのを新聞や雑誌などで掲載され,医者もがんが治ったと言っていると書いてありますが,このことに対する考え方,対応あるいは漢方薬でいいものがありますか?
30 オーダーメイド治療について教えてください
31 県内にPCU(緩和ケア病棟)がどこにありますか.緩和医療と終末期医療の違い,在宅医療について
32 今後どこで相談にのってもらえますか.情報を提供できる体制は?



 1)有吉:まずは,がんの一般的な話からお聞きしたいと思います.
タバコを50年吸っているのですが,肺は黒くなっているでしょうか.循環器への影響はどうでしょうか.今やめた方がいいのでしょうか.
斉藤:この方の肺を直接診たわけではないので黒くなっていると断定はできませんが,他のひとよりは黒くなっているのではないかと思います.タバコは肺がんだけでなく,種々の呼吸器の病気,それから心筋梗塞をはじめとする循環器の病気,他の臓器のがんにもよくありません.百害あって一利なしといえます.今タバコをやめれば,やめただけの利益がありますから,やめたほうがよいです.もしタバコをやめるならできるだけ早くやめてください.
 2)有吉:ポリープはがんになりますか.胃がんを患って7年になりますが,経過はどうなんでしょうか.
武田:一般的にはポリープはポリープであって,がんではないので安心されたらよいとお考え下さい.ポリープががんになるかどうかはまだ議論のあるところです.胃がんの場合,早期の段階できっちりと治療がなされていれば過度に再発の心配はなさらないほうが良いと思います.ただし,毎年の検診など,経過観察の検査はきっちり受けていただいた方がよいです.がんの手術をうけてから7年が経過しているということは,再発の危険は非常に少なくなっていると考えられます.
有吉:追加させていただけば,大腸ポリープだけはがんとの関連が言われていますので気をつけていただいた方がよいと思います.それから,再発についてですが,多くのがんは手術してから5年を経過すればほとんど再発しないと考えてください.ただし,例外的に乳がんだけは10年経過しても再発することがあります.ただ5年経過して再発するのは,ほんとうにたまにあるだけですので,安心してください.
 3)次の質問ですが,.
武田:肥満とがんの関係についてはっきりしたデータはありません.ただし,肥満は生活習慣病の原因になりますので,生活習慣病に関連したがんの可能性はあるかもしれません.
有吉:乳がんの場合は,肥満は危険因子と考えていただいた方がいいと思います.
 4)年齢の若い人のがんは進行が早く,お年寄りのがんは進行が遅いのですかという質問がありますが.
山本:がんの種類を限定しなければ,若い人のがんのほうが進行が早い傾向にあります.ただし,我々が専門にしている肺がんでは,平均年齢が65歳ともともと高齢の方が肺がんになられるわけですから,65歳の10歳前後で差がでることはありません.一般的には若い人の方が進行が早い傾向にはあります.
有吉:若い人というのは何歳ぐらいのひとのことを指しているのでしょうか.
山本:20歳くらいの人のことです.
有吉:私自身は,16歳の乳がんの方と18歳の大腸がんの方を受け持ったことがあります.ただし,このように若い方のがんは非常に稀ですので,何でも自分にあてはめて過剰に心配することは必要ないと思います.もちろん,稀だと言っても1000人に1人ぐらいであれば,自分にあたる可能性もあるわけですが,確率は極めて少ないわけですから,心配しすぎるのもどうかと思います.
 5)次の質問ですが,肺がんは絶対になおらないのでしょうかという質問があります.斉藤先生,肺がんの化学療法,放射線療法,手術について説明してもらえますか.
斉藤:肺がんが絶対になおらないということはありません.早期に見つけて手術をすればどんながんでもなおることが期待できます.肺がんには15-20%を占める「小細胞がん」と,小細胞がんではない残りの80-85%を占める「非小細胞がん」があります.非小細胞がんで,早期の段階であれば手術でなおせますし,放射線治療でもなおることがあります.小細胞がんは早い段階であれば化学療法と放射線療法を併用することで治癒することも期待できます.残念なことは,多くの肺がんが早期に診断できない状態ですので,多くの方の進行した肺がんを化学療法でなおすというのは難しい状況にあります.
 6)有吉:病院にすべてお任せして治療を受けているのですが,ご親切な他人が新薬もどきの民間療法を勧めてくれています.どのように対応したらよろしいでしょうか.
向山:私どもの緩和病棟に受診される患者さんのほとんどが,受診されたときには様々な民間療法たとえばキノコの類を飲まれています.はじめから民間療法をやっておられない方に,新たに民間療法を勧めることは絶対にありません.多くの患者さんは民間療法を2つ,3つをやっておられて飲む量が多くなってしまって,おいしく食事することができなくなっています.食事がおいしく摂取できなくなっている方には民間療法はやめることをお勧めしています.何種類も民間療法をやっていてどうしても民間療法を続けたい患者さんには,せめて1種類にして,食事がおいしく摂取できるよう勧めています.この場合も,民間療法にも副作用があることを十分説明して,飲んでもらっています.
 7)有吉:PETは有用でしょうか.
山本:PETの有用性はある種のがんでは確かめられています.肺がんであれば,PETという検査機器を使うことによって,転移が早く判明したり,転移かどうか判らなかったものが転移であると判明することがあります.ただ今の日本の医療事情ではPETができるところが限られていることと,PETでなくても,従来からのCTやMRIで十分検査できるということを考えあわせると,PETがなくても安心していただいてよろしいです.ただPETがあれば見つかりにくい部分が見つかるという利点があります.ただし,静岡県立がんセンターでもこの11月から検査ができるようになりますが,1日で数人しか検査ができませんので,まだまだ実験段階と考えてください.
有吉:PETというのは動物のペットのことではなくて,検査機器でありまして,いわゆるアイソトープを用いて検査をするのですが,非常に高価で数も少なく,保険適応にはなりましたが,その評価はいまだ定まっておりませんことをご了解下さい.まだ,これが絶対に信用できるというものではないとお考え下さい.
 8)次に日常生活とがんの関係の質問にうつります.食べてはいけないもの,日常生活で行うべきもの,日常生活で絶対に行ってはいけないものはありますか.
武田:非常に難しい質問ですが,私は患者さんには「何を食べてもいいですよ,好きなものを食べてください」と説明しています.やはり食生活に必要な栄養をとり,必要なビタミン類,栄養素をとるということを考えれば,偏った食事は避け,バランスのとれた食生活をするのがよいと思います.もし機会があれば,栄養士さんと相談して,カロリー量や栄養素のバランスなど指導をうけるのもよいかと思います.ただ,絶対に食べてはいけないものというのはあまりありません.
有吉:「がんにならない12ヶ条」等の予防法がありますが,これが絶対というわけではありません.ただ,このように生活したらいかがかということでは参考にはなりますので一度ご覧になってみて下さい.
 9)イレッサという薬が肺がんに対して認可されたということですが,その効果について教えてください.
斉藤:イレッサは,日本では,手術不能と再発の非小細胞肺癌のみに使用できます.日本での臨床試験では28%の方でがんの大きさが半分以下になり,症状緩和にも優れ,通常の抗癌剤よりも早く効果が現れるなど,非常に希望のもてる薬です.ただし,本当にどのように使って良いのかということはまだ判っていません.ですから,どのように使ったら最もよいのかを調べるために,今後臨床試験が必要だと思います.ただ,今現在,他にもう治療法がなくて困っていらっしゃる患者さんには,当院でも使用しています.
 10)有吉:がんは遺伝しますか,親ががんだと子もがんになりやすいですかという質問がいくつかありますが,山本先生いかがでしょうか.
山本:ある種のがん,例えば乳がんと一部の家系で遺伝の関係があるということがアメリカで報告されたりしています.他の病気では,糖尿病でははっきりした遺伝が確認されていますが,がんでは,このようなはっきりした遺伝は確認されていません.昔から医者の間でも「がん家系」というものがあるのではと言われていて,確かにそういう家系があるような雰囲気を私どもも持っております.ただし,親ががんになったからといって,子も必ずがんになるということはありませんので,無用に心配なさる必要はありません.
 11)有吉:現時点で,進行した肺がんの治療としてどのようなものがあるでしょうか.
武田:進行した肺がんでは,手術や放射線療法といった局所療法は適応がない(病状に適った治療ではない)ので,抗癌剤による薬物療法(化学療法)で治療することになります.非小細胞肺癌に限っていえば,プラチナ製剤という抗癌剤が鍵になる主要な薬になります.初回の治療としては,このプラチナ製剤と,他の薬を組み合わせた併用療法をすることが勧められます.皆様がこの治療で完治していただければいいのですが,現実はなかなか厳しいものがありまして,進行した肺がんの場合,再発という問題があります.こういった場合には,さらに次の抗癌剤の治療ということになっていきます.これを2次療法,3次療法と呼んで,薬を替えながら治療していくのが現状ではないかと思います.さらに,それでも再発すれば先ほどお話しがありましたような分子標的薬のイレッサを用いた治療をすることも候補に挙がってくると思います.
有吉:イレッサという薬について追加しますが,この薬は今のところ肺がん,なかでも非小細胞肺がんにしか使用が認められていません.ですから,乳がんなどで使ってみたい方がいらっしゃっても,使うことは認められておりませんし,効くかどうかも全く判っておりません.現時点では肺がんしか使えないということをご了解下さい.
 12)小細胞肺がんについての質問ですが,小細胞肺がんと診断され,4コースの治療が終了して50%以上の縮小効果がありましたが,次回はどれくらいの期間をおいて治療をうけたらよいでしょうかという質問があります.
斉藤:難しい質問ですが,4コース終了してがんが小さくなり症状も落ち着いたのであれば,抗癌剤治療は終了して少し経過をみたいです.ただし,1ヶ月に1回くらいの割合で,レントゲンやCTをみながら,経過がどのように変わっていくか見極めながら治療を考えていくことになります.
 13)有吉:小細胞癌で治療が終了し,がんは縮小し,腫瘍マーカーも正常範囲にありますが,今後再発しないようにする方法はありますか.
山本:再発しない方法は,健康的な生活を送ることでしょうか.答えにはなってないかも知れませんが,治療は,先ほど斉藤先生が答えたように,あるところでやめた方がいいんですね.ずーっと治療を続ける患者さんと,あるところで止めて,経過をみていて再発してから治療を再開した患者さんとで比べたことがあるのですが,どちらもあまり差がなかったという話を聞いております.治療が終わっても再発が不安だからという理由で,ずーっと抗癌剤を服用してもらっても,費用もかかるし,副作用も出現するし,その割に効果があまりかわらなかったということが確かめられています.小細胞肺がんであれば4回なり6回(コース)の治療をうけてがんが小さくなり,症状もよくなって腫瘍マーカーも正常になれば,斉藤先生のいうように,定期的に通って健康的な生活を送ることが一番重要と思います.その他に,主治医が勧めていないのにもかかわらず,色々な治療を追加するということは,私は推奨できません.
 14)有吉:これにつきましては卵巣がんの方で非常に深刻な質問がきています.手術を受けた後,再発して抗癌剤治療を受けているのですが,いつまで続けるのでしょうか.肺がん以外のがんも含めて,治療をいつまで続けるのかについて,意見を述べてください.
山本:がんの種類によって使う薬,治療法は違うんですね.ですから難しいんですね.有吉先生が,最初の講演で,肺がんのなかでも,種類が違ったり,進行度が違えば,治療法も異なるという話をしましたが,がんの種類(肺がん,乳がん,卵巣癌,胃癌というように)が違えば治療法は異なります.それから,一概にいつまで続けなさい,いつになったら止めなさいということも判らないですね.小細胞肺がんであれば先ほど説明したように4回から6回治療すればよいですが,乳がんであれば6回から12回の治療が行われることも一般的にあるんですね.少なくとも言えることは,永遠に治療を続けることはありません.なにかの目安があってそれが達成されれば,それが回数であったり,腫瘍マーカーであったりしますが,治療は終了します.ですから担当医の先生に,何が目安なのかお聞きになって,それを目標に頑張られたらいかがかと思います.ちょっと答えになってないかも知れませんが.
有吉:腫瘍マーカーに関して追加しますが,腫瘍マーカーというのは治療をして経過を見ていく上には有用ですが,診断に用いるのは好ましくありません.たとえばがんの治療をして,治療後腫瘍マーカーが正常であったものがまた悪化すれば,がんが再発している可能性があります.しかし,腫瘍マーカーを全面的に信用して何のがんか診断するのはどうかと思います.もちろん,小細胞肺がんや肝臓がんでは非常に優れた腫瘍マーカーもありますが,腫瘍マーカーに頼りすぎると,誤りのもとであり,医療費の無駄遣いになりますので御注意下さい.
 それから,前立腺がんで何か分子標的薬がないかという質問を頂いておりますが,今のところ,あくまで「今のところ」ですが,前立腺がんに有効な分子標的薬はありません.
 15)次に,術後の化学療法のことですが,消化器がん(胃がん,大腸がん),乳がんについて,手術後の抗癌剤治療について教えてください.
向山:先ほどの山本先生の回答と共通しますが,がんの種類で,手術後の化学療法が有効なものと,有効でないものがあります.有効なものとして代表的なものが乳がんです.乳がんというのはホルモンの受容体が陰性か陽性か,それから乳がんの分子標的薬にハーセプチンという薬がありますが,乳がんの細胞の表面にHer-2という特殊な物質が過剰に発現している方に対しては,20-30%の方が該当しますが,こういう方には非常に有効です.乳がんに関しては,術後にリンパ節転移の数,顕微鏡で見たがん細胞のたちの悪さ,それから閉経前後,そういうことを含めて,この状態なら化学療法を6回やりなさいとか,この状態ならホルモン療法を続けなさいとか,臨床試験で確認され,確立された治療の基準があります.一方,胃がんにおいては,どういう状態の患者さんにどういう薬をどれだけの期間使いなさいというような検証が十分なされていません.現在,日本で開発されたS1という薬を胃がんの手術後に内服した患者さんとこの薬を使わなかった患者さんでどちらが有益かを調べる臨床試験が進行中です.ですから胃がんに関しては,術後に是非補助化学療法をやりなさいと勧める根拠はない場合が多いです.また肺がんに関しても術後化学療法を勧める根拠は少ないのではないでしょうか.ですから乳がんの場合は,明らかにこうしなさいという指針がありますが,胃がん,非小細胞肺がんに関してはこうしなさいという指針はないというのが現状です.
 16)有吉:その問題に関してですが,これはかなり個別的な問題ですが,乳がんで7種類もの薬を飲んでおられるという方がおられますが,普通,手術後にがんを抑える薬を7種類も使うことはないですね?.
向山:抗がん剤として7種類ということはないと思いますし,抗がん剤の副作用を抑える薬を含めて7種類ということは稀にあるかもしれませんが.7種類の薬のうち,抗がん剤としては,飲み薬なら1種類か2種類です.ですから7種類すべてが抗がん剤であれば過剰投与であるし,もしかしたら抗がん剤は1種類か2種類で,残りは胃腸薬や抗がん剤の副作用を抑える薬かもしれません.
有吉:この場でなかなか答えにくいのが多いのは,一つには主治医の先生と十分にコミュニケーションがとれていない,あるいは主治医の先生が一方的に説明するだけで十分質問を聞いてくれないということがあると思います.

 17)こういうことに対する対応をどのようにしていらっしゃいますか.例えば術後に抗がん剤を飲むべきかどうか,など患者さんから質問されることが多いのですが,もし向山先生がこのような場で質問されたらどのように対応されますか.
向山:通常の外来時間で十分な説明をすることは不可能です.外来診療中には十分な説明をする時間はありませんが,医者もどこかで時間はとれるはずです.ですからあらかじめ情報提供をして資料を読んでおいてもらい,別の日で主治医の時間の空いている時間,例えば私の場合ですと4時から4時半の間に30分程度の時間をとって,ご本人と家族に来ていただいて相談にのるようにしています.私のチームのスタッフも同じようにしていますし,多くの医師がそうしていると思います.
有吉:ありがとうございました.いずれにしましてもこれはコミュニケーションが非常に大切で,ここでなかなか答えることができないんですけれども,患者さんのサイドからも聞くべきことはしっかり聞くということがもっとも重要ですし,そこで十分コミュニケーションをはかれなければ,医者をかわるよりほかはないと思います.やはり大切なのは自分がどう納得するかですので,是非医者との人間関係をどのように構築するかについて考えていただきたい.我々医者の側からもコミュニケーションをはかるよう,さらに反省すべきことではありますが,患者さんの側からも,できるだけ納得できるよう,どのように医者にアプローチするか考えていただければと思います.
向山:その点に関してですが,外来で是非,殴り書きでも結構ですから,患者さんの状態を3つぐらいメモして渡していただけると診療医は助かります.たとえば今,抗がん剤の治療を受けていたり,痛みの治療を受けている場合に,何月何日に抗がん剤の治療を受けて,その後何月何日にどのような痛みがあったとか,一番つらいことは何であったか,一番困ったことは何であったのか3つぐらいにまとめて渡していただくと,担当医にとっても助けになります.患者さんのセルスケアの会(患者さんの自助会)が作成している手帳を利用してもよいですし,ノートに日記のように書いていただいても,紙切れにメモしても構いません.何があったか3点程度にまとめて紙に書いて外来でさっと渡してもらうだけで,我々は何が重要かをすぐに判別できますので短い外来診療時間の中でも,患者さんにとっても医者にとっても十分な情報交換に役立つと思います.
有吉:ありがとうございました.

 18)ところで進行度に関して1,2,3とか1度,2度,3度とか尋ねられることがあるのですが,この点に関しては私から答えさせていただきます.がんがどれくらい進んでいるかは臨床病期といいまして,通常はI期,II期,III期,IV期とわかれていまして,数が多くなるほどがんが進行しているわけです.それから私が以前尋ねられたことでI度,II度,III度,IV度,V度というものがありますが,これは細胞の悪性度のことを表しています.これは一般的にI,IIは正常細胞,Vはがんで,IVは限りなくがんに近い,IIIというのは,正常ともがんとも判定できないものです.例えていえば,相撲の行司がどちらが勝ったか判定できず軍配を真ん中にあげたような状態で,我々医師にとっては一番困る判定です.こういう理由でVだから進んでいるというわけではなく,細胞の悪性度を表しているだけですので,数字で示された場合,「その数字は何ですか,何を表しているのですか」ということを尋ねていただきたいです.
 19)さて,最後にかなりたくさん緩和ケアに関する質問をいただいています.本日は向山先生に来ていただいており是非お答えいただきたいのですが,まず,緩和ケアに限らずアメリカではがん治療にはメディカルオンコロジスト(腫瘍内科医)が中心となってチーム医療が行われていますが日本の実態はどうなのでしょうか.
向山:おそらく国立がんセンター中央病院を含めて,真にアメリカの代表的ながん病院のような体制のできている病院はほんの一部しかないと思います.アメリカの代表的な病院ではCancer Boad(キャンサーボード)あるいはチューモアボード(腫瘍ボード)といって,腫瘍内科医,がん専門の看護師,薬剤師,栄養士などいろいろな職種が一緒になって活動しているのですが,日本ではまだCancer Boad(キャンサーボード)が円滑に稼働しているのは少ないです.しかしこれからやろうとしている病院が増えているのは確かです.
 20)有吉:まあ,日本の医学教育にも問題があるわけですね.それから,これは個別的なことですが,「痛みの緩和医療は早く始めた方がよいとのことですが,例えば膵臓がんで転移があって時々背中に痛みがあるのですが,どの程度の痛みになったら積極的な緩和医療が必要でしょうか.」というご質問ですが.
向山:すでに痛みがあればWHOがん疼痛治療のガイドラインに則った第1段階の薬を飲んでいただいて,それでも痛みが軽くならなければ第2,第3段階の痛みの治療を受けていきます.なぜ早めに痛みの治療をしなければいけないかというと,抗がん剤の治療と同じで,がんが進行してがん細胞が増えれば増えるほど突然変異がおこって抗がん剤が効かない細胞が増えてくるわけですが,痛みの場合も同様です.最近わかってきたことですが反復する痛みを我慢すると,その痛みを記憶してしまう中枢が,ある場所にあるのです.ですから反復する痛みを早く止めてあげることが,非常に除痛をはかれるということです.痛ければその瞬間に鎮痛薬を開始した方が有利であるということが基礎的な研究でもわかっています.痛ければまず鎮痛薬,これを開始してください.
 21)有吉:その痛み止めを使う際に,ブロック注射を続けた場合には,何か後遺症がありますかという質問がありますが.
向山:ブロック注射とは神経ブロックのことですね.病気の広がりにもよって神経ブロックの種類があります.永久ブロックでは,神経ブロックする場所によって,例えば下半身の運動障害が出現したり,膀胱直腸障害が出現することがありますが,一時的な神経ブロックであれば,そのような重篤な副作用を起こすことは少ないと考えられます.ただ神経ブロックは,それを実施する麻酔科医の腕にも左右されますので,技術的な側面が1点,それから痛みの治療の原則はやはり薬物療法ですので,まず薬物療法をしっかりやりつつ,そこに神経ブロックを組み合わせるということが原則だと思います.
 22)有吉:次は症状に関するお尋ねですが,症状に対して対症療法は重要だと思いますが,「膵臓がんの術後に,食べ物がつかえる,消化液がうまくでないのか,つかえた感じがするのですが,どんな手当があるでしょうか.」これはなかなか答えが難しいとは思いますが.
向山:たとえば膵臓がんが手術で取りきれなくて,悪化して大きくなり十二指腸を圧迫した場合,バイパス手術といって昭和天皇が受けたような狭窄している部分を迂回する小腸の手術をすることによって症状を和らげることができます.同じような患者さんで大学病院からいらした患者さんで,膵臓がんの手術を受けた後に通過障害があらわれて,さらに痛みもでてきました.膵臓がんが大きくなって神経叢といって神経の束を侵してしまい,神経因性疼痛といってモルヒネの効きにくい痛みです.この患者さんにはバイパス手術によって通過障害の治療をすると同時に,麻酔科のペインクリニックの先生にも手術に入ってもらって,手術中に直視下(直接がんが神経叢に入り込んでいるのを確認しながら)に永久ブロックを行い,痛みを取り除きました.神経叢への永久ブロックは,直接腹部を切開することなしに実施することもありますが,血管を刺したりして危険を伴うので,手術の際に一緒に永久ブロックをしてもらったわけです.このほうが安全に確実にブロックができます.さらに加えて,手術の最中に放射線治療ができる施設もあります.膵臓がんの手術中に放射線を当てることのメリットも報告されています.その患者さんを包括的にどのように治療していくか,これこそ先程申し上げたCancer Boad(キャンサーボード)であるわけです.いろんな立場の先生,いろんな職種のスタッフと話し合えば,その方にとって最良の治療ができると思います.ですからがんによって通過障害がある場合は,バイパス手術が一つの選択枝になると思います.
 23)有吉:胆嚢をとった影響が体にあるかという質問がありますが,それはどうですか.
向山:通常は胆嚢をとっても生活に影響はございません.
 24)有吉:「緩和病棟への平均入院期間は30日ほどと書かれていましたが,移行の時期はこれぐらいが適当と思われますか」という質問ですが.
向山:私の病院の場合,いろいろな病院から様々な苦痛,重篤ながん疼痛の方が紹介されてきますので,まずは症状を取り除くのに時間がかかることと,在宅医療ができると判断したら調整にやはりある程度時間がかかります.医療ソーシャルワーカーや継続看護室,それからリハビリテーション科の先生の受診とリハビリテーション等に在宅医療の準備をしてもらう期間も含めて一ヶ月ほどみてもらえばよいと思います.ですから先程申し上げたように,痛みはできるだけ早く取り除いて難治性の痛みにしないこと,それから呼吸困難も含めてそうですが,まず苦痛の治療を開始して,医療ソーシャルワーカーに早く在宅移行の準備をしてもらうこと,つまり自宅でレンタルのベッドを借りること,車椅子を借りること,このようなことにも結構手続きに時間がかかりますので,そういう社会支援のの有効利用を考えれば,やはり1ヶ月ぐらいはいただきたいですね.
 25)有吉:それから緩和ケアチームについて,「スピリチュアルペインなどのケアは医師,看護師など誰でもやっておられるのですか.患者は誰に訴えたら解決してもらえるのでしょうか」という質問です.
向山:これはおそらく4つの苦痛,すなわち1)身体的な痛み・苦痛,2)心の苦痛,3)経済的,4)社会的な苦痛,このスピリチュアルペインは21世紀最後に残る苦痛だと思います.抗がん剤も鎮痛薬も非常な勢いでいい薬が進歩してきていますし,治験もやっています.ただスピリチュアルという側面では,その方の人生観,価値観,死生観,究極観が左右しますし,ただ私どもの緩和ケア病棟というのは,はじめは2人部屋,4人部屋という案もあったのですが,すべてを個室にしたというのはいつも家にいるのに近い環境で,集中的なチーム医療で苦痛を取り除くことだったんですが,もうひとつのことは例えばクリスチャンであれば,牧師さん,神父さんが好きな時間にきていただいて十分に話を聞いていただける,そういう場所を提供できる,それから亡くなる前に病床受洗を受けられるかたもいる,それから我々が日々対処しなければならないのは,お話を聞く時間をできる限り長くもつ,時にコミュニケーションが十分にとれている場合には,我々医療者の持っている人生観,価値観,死生観を,「僕はこういうふうに思って生きている」とざっくばらんに話す,こういうことで日々診療しています.非常に難しい最後に残る苦痛だと思います.
 26)有吉:例えば「家族がホスピスに入院させたいが,患者本人が今ひとつ理解していない場合にどのような声のかけ方があるか」,もう一つ大変なことだと思うのですが,「できるだけ十分な鎮静剤をつかって静かで安らかな最期をと家族は決心しているのですが大変自責の念に駆られるのですがそれでいいのでしょうか.家族の決断だけでなく本人にも話をするべきでしょうか.」という質問があります.これは本当に基本的な話だと思うのですが,これについていかがでしょうか.
向山:非常に重要な質問です.特に緩和鎮静治療の場合は,確かに今ある苦痛の治療で取り除けない苦痛というのは,高度な呼吸困難感や,非常に興奮性の高い錯乱をともなう,肝不全に伴う譫妄,これはいろんな治療をしてもとれない場合があるのです.私どもの病棟では,これも十分にコミュニケーションがとれた段階からですが,やはり今ある治療すなわち,がんを小さくする治療もそうですが,苦痛治療でも限界がある,そのときに患者さん自身とお話をするときに,苦痛を感じなくなるくらいに意識を落とすことをどう思われますかと尋ねるのです.それは1回だけではなくて,これはもう有吉先生がおっしゃるコミュニケーションですが,信頼関係を築き上げながら,いわゆるインフォームドコンセントを原則として患者さんから得るようにしています.ただ病気の勢いが非常に早い場合,そして患者さんに判断能力がない場合は,退避的なものとして,患者さんが最も信頼しているご家族の方から,これだけ病気がひどくなる前にどうやっても苦痛がとれない場合に眠るように旅立ちたいという希望が前からあったといわれるご家族が非常に多いのです.家族が代理人となってこういう治療をする場合もあります.ですから,患者さんと家族との十分なコミュニケーション,それから今の医療の限界,それと緩和鎮静治療これもずっと眠り続けるように鎮静剤を投与し続ける場合と,間歇的にその量を加減する場合と様々あります.しかし一般的には標準的な治療で七転八倒の苦しみがどうしても改善できない場合には持続的な緩和鎮静治療をやらないと,ちょっとでも意識レベルを戻すと激しい痛みが戻ってしまうことになります.このような事態は本人もつらいし,家族もつらいので,私どもは持続的な緩和鎮静治療ということになりますし,これは外国の論文を含めて,緩和鎮静治療をするような病態で緩和鎮静治療をしてもしなくても生命予後には左右しない(緩和鎮静治療をすることによって寿命が縮まるわけでなく,緩和鎮静治療をしなければならない状態がすでに予後不良の状態である)というデータが3〜4報あります.ですからそういうことを含めてお話しいたします.もう一つのお尋ねは?
 27)有吉:患者さんが知らなくて,家族が決定してしまうというのは,よくあるケースですが緩和医療のみを選択された場合,自責の念に駆られるというのはどうでしょうか.きちんと本人にも話して決めるべきなのでしょうか.
向山:私どもの科では病名と病状,すなわちどういうがんで,どこに転移しているのかということ,これだけは最低知っていていただいています.それは嘘はつけないし,今ある症状はどうしてかということを話しながら苦痛の治療をする,これは今日一番最初にお話しした問題なんですが,治療というのは2つあるのです.ひとつはがんを縮小させる治療,もうひとつが同じくらい重要なのが苦痛の治療なのです.そしてがんを小さくする治療というのはそういう専門家のいる病院で受ける,ある程度の苦痛はがん治療医といわれるオンコロジストができなければいけないのですが,より高度の苦痛の場合は,我々のようながん緩和ケア医,がん緩和医療医というプロに任せていただきたい.そこで積極的で適切な苦痛の治療をやる,これも治療なのです.その治療によって苦痛が緩和すればいい状況で過ごすことができます.急性白血病や悪性度の高い悪性リンパ腫のように1日で倍に広がってしまう場合をのぞいて,一般的な固形がん(胃がん,非小細胞肺がん,大腸がんなど)は比較的のんびりしています.ですから苦痛がなくある程度がんと共存するということができますので,いわゆる痛みや心の苦しみを取り除くこと,これもあくまで治療なのです.その治療をうけるために専門家にかかるということを,これは医者の言い方も悪いのですが「もうやることがないからホスピスにでも行ってください」というのが非常に多いんですね.ホスピスや緩和ケア病棟に「もうやることはない」ということはないんです.これからが本当に我々プロがやる治療の場であるのだから,医者がどのように患者さんに伝えるのかがまず大事なことであるし,患者さんやご家族も「苦痛の治療も治療である」と認識していただくこと,それからモルヒネが効きにくい痛みに対する鎮痛治療の治験をやっていますが,こういう治療が動き始めています.呼吸困難感を抑える薬の治験も始まろうとしています.苦痛の治療も重要な治療なのだから,専門家に任せようというふうにご本人にお話ししてください.これは決して嘘ではないし,我々ベストを尽くす緩和医療医であればプロとしてのケアをしますので,決してご家族がそういうことで迷われる必要はないと思います.
 28)有吉:この他にも何十枚と質問があるのですが,愛知病院に関する質問は,私が責任を持ってお答えしなければならないのですが.この中には医者のとコミュニケーションができてないことに由来する質問がいくつかあります.例えば胃がんの手術後に4年半してから大腸に転移し入退院を繰り返し,そして水が貯まってきているが医者からは何もいわれず,末期になれば医者は必ず家族に連絡をくれるものなのでしょうか.私の認識では,このような状態ではまず家族にお話しするのがふつうだと思いますし,今日ここにおられる先生方はそれが当たり前だと思っております.だからまだ話がないとすれば,未だ末期ではないと思ってらっしゃるかもしれませんが,このご質問では必ずしもそうではなさそうな気がしますので,何とも答えようがないのですが,いずれにしましても先程からお話ししているように率直に聞いていただきたいと思います.それで答えてもらえないようなら病院の他の方に聞いていただくなど,とにかく何らかの形で自分に納得のいくような線を出していただきたいと思います.
 それから「90歳で胃がんと言われたのですが食事ができないのはがんのせいでしょうか,寿命なんでしょうか」と言われるんですが,これも何とも答えようがないんですが,胃がんの状態も解りませんし,やはり個別に話し合いをしていただかないと何ともいえません.それからもう一つは「がんマーカーを定期的に調べるのはよいことなのでしょうか」ということですが,今のがんマーカーは進行がんの早期発見程度には役に立ちますが,早期がんをみつけることはできないと思っていただいて結構です.それから「がんの種類によって術後再発したら死亡率はどのくらいでしょうか」というご質問ですが,これは腫瘍の種類にもよりますので一概にはいえません.ですから一般的にがんといってもものすごく違うということをお考えいただきたいと思います.
 それから肺がんでIAというと70〜80%の確率で治るはずなんですが,なかなか術後に体が元に戻りませんというのはよくお聞きすることです.やはり生活のリズムをきちんと持って時間を待っていただくのがいいのではないかと思います.
 29)さて,ここで壇上の先生方,ひとりひとり,自分の意見を言ってください.アガリスクを含めて民間療法でがんが治ったというのを毎日のように新聞や雑誌などで掲載され,医者もがんが治ったと言っていると書いてありますが,このことに対する考え方,対応あるいは漢方薬でいいものがあるかということも含めて,山本先生から順にお願いします.
山本:私が患者さんに言っているのは「高いものは信用するな」です.他のものは普通高いほどいいものなのですが,保険が利かない薬は高いものほどダメな薬です.私の個人的な考えですが,高いものはやるなです.もうひとつはアガリスクとか丸山ワクチンとかやるのであれば必ず主治医に教えてほしい.我々が,もし患者さんを治すために新しい治療をした場合,その新しい治療と民間療法の薬が本当に合うのかどうかわからない場合がありますので,新しい治療をする場合には,できるだけ余分なものはやらないでほしいと思います.もうよく解っている治療の場合には,アガリスクやその他のものが効かなくても患者さんの心の安静になるのならいいだろう,そしてまかりまちがって,アガリスクが1万人に1人の割合でがんに効いたのならそれはそれで,患者さんに悪ささえしなければいいだろうと考えています.一般的な治療をしている場合は,アガリスクなどを飲んだからと言って怒ることはありませんので,まず本当のことをおっしゃってください.わたしはこのように患者さんに言っております.
有吉:ありがとうございました.それでは武田先生.
武田:いわゆる民間療法に関しては,情報として新聞とか週刊誌とかみていますととにかくよくなったとその一点だけが強調されています.我々は科学的なデータというのはよかった部分も悪かった部分も,例えば抗がん剤であれば評価に関してはどれだけ効いたという裏にはどれだけ効かなかったというのがありますし,どれだけ副作用がでたかなどのデータを出して総合的にその治療がよいかどうか判断しているわけですね.私は決して民間療法は勧めていませんが,民間療法においてもよかった面,悪かった面を評価してそれをもって信用されるのであれば使用されるのはそれは患者さんの権利だと思います.わたしはこのように患者さんに説明し,併せて私どもが行っている治療のベネフィットとリスクをお話しして治療を受けていただいています.
有吉:斉藤先生はいかがでしょうか.
斉藤:医者はべつにアガリスクやプロポリスの専門家ではないんですね.これについて私たちは何の教育も受けていないんです.民間療法について基本的には分からないんですね.私個人としてはこちらからそういうものを勧めることはしません.患者さんの方からアガリスクやプロポリスや中国の何やらをどうしても飲みたいという希望があれば,それは患者さんの責任で飲んでいただくことにしています.ただ夢の薬で効果だけあって副作用が全然ないような薬はありませんので,本当に民間療法が害がないのかということは誰にも分からないのです.山本先生も言われましたように,民間療法の薬を使う場合は,必ず主治医の先生には伝えてから飲んだ方がよろしいかと思います.
向山:講演の中でも申しましたが,私のところでは患者さんに来ていただいたときに飲んでいる薬をすべて紙に書いていただいています.その薬を確認した上で,害のないものであって,食事をするのに影響のないものであれば一種類だけ飲んでもらっています.これから始めるという方にはお勧めしませんし,まずはしっかりと症状のとれる薬をしっかりと飲んでいただくことです.毎日のように新聞にでているキノコの類などは,非常にトリッキーな書き方をしているのです,気をつけなければいけないのは,ベースに科学的に根拠のある抗がん剤治療を受けている方が一緒にそういうものを飲んでいることがあります.がんが消えたのは科学的な検証を受けた治療法で消えたのです.ところがあたかも民間療法のみでがんが消えたごとくに書かれているために,科学的に根拠のある治療を拒否して民間療法のみに頼ったがためにがんが進行してしまった気の毒な患者さんが私のところにもいらっしゃいます.今回厚生労働省でこういう代替医療の研究班もできました.それから大学の医学部にもそういう研究をするところができました.それからそういう学会もできました.ですからこれからは,こういうものは科学的な検証をすることで整理されていくので,いまは代替医療で平安が得られるのであれば1種類のみ続けてください.それから山本先生がおっしゃったように,非常に高価で悪徳なものはいけません.もう何人もいらっしゃるのですがあるペットボトルの水にある種の電気をかけてそれを飲めばがんが治るという病院が都内にいくつかあって,それと似たような電気をかけた水をもってこさせる患者さんが非常に多いんです.患者さんとご家族の前で,その病院の医者に直接電話をかけて,どのような根拠でがんに効くのか,どこにデータがあるのか話していくと途中で答えがでなくなって,その医者は途中で電話を切ってしまう,そこでやっと患者さんは止めてもらえたというケースが多いんです.ですから決して,詐欺療法や悪徳なものには引っかからないでいただきたい.これはこの3年間の間にイヤというほど感じていることです.
有吉:ありがとうございました.今の4人の先生のお話はみなさんもおわかりいただけたと思うのですが,いわゆる科学的な検証を受けていないということで,私たち医者もその実態が判らないということがあります.ですが私たちが医療を行うというのは保険医療が通常です.保険医療に基づいて治療を行うとすれば,今のような科学的検証を受けない薬を使うということは,私たちはお勧めできないということです.そして今向山先生がおっしゃいましたように非常にインチキな治療があるということです.この間,私は300万円のアガリスクがあるという話を聞きまして,本当に止めるわけにも行かないんですけれども,私たちは科学的検証を受けたものを使用したいということが基本にあることをお考えいただきたいと思います.
 30)最後に一言だけ,オーダーメイド治療について教えてくださいという質問があるのですが,山本先生,お願いします.
山本:有吉先生の講演の中にもありましたが,先程から何度も言っておりますが,がんの治療は人によって違います.ということはオーダーメイド治療をやらなければいけない状況にはあります.研究としてはオーダーメイド治療ができるよう世界各国で研究が進められています.じゃあ,今日明日にオーダーメイド治療ができるかというと,例えば私が今日がんになって,私にあったオーダーメイド治療ができるかというと,そういうものは残念ながらありません.オーダーメイド治療というのはいい治療なのではが,今はそのいい治療ができるよう我々が努力している状況です.先程の民間療法と同じなんですが,今の段階ではすぐにオーダーメイド医療にはとびつかない方がいいのかなと思います.
有吉:ありがとうございました.それでは,そろそろまとめていかなくてはいけないんですが,愛知病院では緩和医療を行っているかとか,この地域ではいわゆる緩和医療病棟があるのかとか,岡崎市民病院でこういう治療を受けているけれども岡崎市民病院で緩和医療をやってもらえるのかとか,そういう類の質問が多々あります.従って私は本日,つくづく地域のなかでがん医療に取り組まなければいけないということを強く感じました.今日は私は愛知病院の代表としてではなくて,NPO団体の代表としてやっているわけですけれども,しかしこういう質問が来るということは,愛知病院のこともお話ししなければならないという意味でお話しさせていただきます.私ども近々三河地区のがんの拠点病院にしようということを病院の玄関に掲げるつもりでいます.ということはこれは緩和医療もやるよということなんですが,いまのところ残念ながら緩和医療チームを作っていません.しかし近々看護婦さんと話し合って病院の中にチームとして作りたい.実は緩和医療病棟を作ってくださいと県の方に上申しているのですが愛知県は今財政がひっ迫していましてお金のかかることは難しいんです.したがってなかなか作ってもらえないんですが,作ってもらえないからやらないというのではなくて,私は何らかの形で外来で相談を受けるような時間を設け,愛知病院ではこうしているということをもう少し明確にするということをしたいのです.現時点では個々の医師に任せ,個々の看護師に任せていくということしかできていないわけです.しかし私は多くのご質問,ご意見を受け取りましたので近々,お答えできるような時間を作りたいと考えています.
 31)それから県内にPCU(緩和ケア病棟)がどこにあるかということなんですが,私が知っている限り安城更生病院にPCUができたはずですね.この前お聞きしたときは平均在院日数が7日くらいということで本当に末期の時にお連れしてというような状態だと思いますので,それは私は緩和医療とは言わないんじゃないかと,むしろ終末期医療になってしまっている可能性があるので,これは向山先生,在宅医療とのコミュニケーションが大切ですね.
向山:PCUに入院していただいて状態を整え,在宅医療の体制を整えていただいて退院していただいて,症状が強くなればまたPCUに入院していただき,また帰っていただくと,それが一番だと思います.
 32)有吉:この地域には安城更生病院があるとしかお答えできませんが,名古屋の方にはホスピスもありますし,今後このような情報を提供できる体制を整えていきたいと思います.
それから,今日向山先生にお話しいただいたがん性疼痛の治療が医師によって異なるというのは全くご指摘の通りであります.しかし,私は基本的にがん患者さんが「痛い」と表現することがないような形にすることを目標としてがん性疼痛の治療をしたいと思いますし,今日向山先生がそのためにお話になったことをこれから守っていきたいと思いますので,少なくとも愛知病院には緩和ケア病棟はないですが,チームとして緩和ケアができ,患者さんの相談に乗れるような体制にしたいと思っておりますし,できるまで待てないとおっしゃる方は是非私にご相談いただければと思います.それで岡崎市民病院で治療を受けているので,岡崎市民病院で緩和医療をやってもらえるかという質問には,私は答えられませんのでご勘弁ください.直接,是非岡崎市民病院でもお聞きいただきたいと思います.
 最後にこういうご質問があります.「余命3ヶ月と診断され,3月より週1回抗がん剤を点滴していて月,水,金と丸山ワクチンをうっております.希望をもってよいのでしょうか」というご質問ですが,3月に余命3ヶ月と言われたということですが,もう既に6ヶ月経っているわけです.やっぱり一日一日を大切に生きていただいて絶対にあきらめずに毎日をお過ごしいただきたい,これがこれからの生活かと思いますので,ここに質問された方は是非,希望をもって毎日を大切に生きていただきたいと思います.
 一応,全部のご質問にお答えしたつもりですが,残ったものがないか今一度持ち帰ってじっくり読ませていただきたいと思います.本日はご参加いただきましてありがとうございました.向山先生,斉藤先生,武田先生,山本先生ありがとうございました.これからもがんの治療にがんばっていきたいと思いますので,なんでもお尋ねになりたいことがありましたら遠慮せずご相談いただきますようお願いします.本日はどうもありがとうございました.

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(平成15年5月12日)