WJTOG図書室 蔵書No.03-2

肺がんと向き合うために 編集 WJTOG広報部 (2004.3.15発行)

「早期の肺がん治療とは」


御注意
 この記録は平成15年11月16日に大阪市のMIDシアターにおいてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が朝日新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-肺がんと向きあうために」の討議録です.内容は平成15年11月16日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告を一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演であり,講演内容が十分に講演者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.

テーマ:肺がんと向きあうために

「早期の肺がん治療とは」
大阪市立総合医療センター呼吸器外科部長 多田弘人

 今日は私は早期の肺癌についてお話しさせていただきます.本日は
1) 肺の解剖,
2) 病期分類,
3) 肺癌の手術の基本,
4) 胸腔鏡手術について,
5) 手術以外の治療法,
6) 集学的治療
についてお話しします.まず,肺の解剖ですが,肺というのは肋骨というケージ(籠)に囲まれていています.胸の断面図でみると,脊椎を中心にして,肋骨がぐるりと胸を取り囲み,その中に肺が入っていて,左右の肺の間に心臓があります.これをレントゲンでとってみると,肋骨に囲まれた黒い部分が左右の肺で,その間に白い影で心臓が写っています.肺にはそれぞれ気管支がついていて,肺の中で木の枝のようにだんだん細かく分かれていくのですが,肺の根本(肺門)の気管支にできたがんを肺門部肺がん(中心型肺がん)と呼び,先の方にできたがんを肺野型肺がん(末梢型肺がん)と呼びます.気管支の周りにはリンパ節があって,肺の根本の部分のリンパ節を1群のリンパ節,もっと真ん中の部分のリンパ節を2群のリンパ節,首など胸の外にあるリンパ節を3群のリンパ節といいます.右の肺は上葉,中葉,下葉という3つの部分に分かれ,左の肺は上葉,下葉という2つの部分に分かれています.これらの分かれた肺には,肺門部で気管支と動脈と静脈がそれぞれつながっており,その隙間にはリンパ節が多数分布しています.

    
 臨床病期というのは,肺がんの進行度をあらわします.肺がんの大きさが3cmより小さく,リンパ節に転移のないものをIA期,肺がんの大きさが3cmより大きいが,リンパ節転移のないものをIB期と決めています.先ほど説明した1群のリンパ節に転移があって,肺がんが3cmより小さいものがIIA期,1群のリンパ節転移があって肺がんが3cmより大きいものがIIB期です.また直接肋骨にがんが広がっていてもリンパ節転移がないものもIIB期です.さらに縦隔リンパ節に転移したものをIIIA期,首や反対側の肺のリンパ節に転移したり,肺がんによって水が貯まってしまったものをIIIB期といいます.最後に,他の臓器まで肺がんが転移してしまったものがIV期です.

          
 早期肺がんの治療は,小細胞がんと非小細胞がんによって異なり,一般的に小細胞がんは臨床病期I期のみ,非小細胞がんは臨床病期II期までが手術適応になります.それ以降は放射線や抗がん剤が中心となります.全国集計では,手術できた肺がんの種類は腺がん,扁平上皮がん,大細胞がん,小細胞がんの順に多く,手術をしてから5年後の生存率は52%で,男性48%,女性60%であり,女性の方が大勢生きておられます.なお,手術に関連して亡くなられた方が1.3%ありました.臨床病期が早期のがんほど5年後の生存率が高く,進行するにしたがって手術をしても5年後の生存率は落ちてきます.また手術する前には手術できる臨床病期だと判断されていても,手術してみると思ったより進行していて,実際の早期がんの方は,さらに少なくなります.
手術の方法ですが,一般的な手術は肩甲骨の下を大きく切り肋骨と肋骨を広げ,がんの存在する肺と周りのリンパ節をとります.手術可能な人は,臨床病期が手術適応範囲内(がんが片方の肺に限局し,CTでリンパ節転移が認められない状態)で,心臓と肺の機能が十分ある人,最低でもゆっくり1km歩けるのが必須条件でしょう.通常の肺の手術では,肩甲骨の下から肋骨に沿って25-30cm切り開き,万力のような開胸器を肋骨に引っかけて肋骨と肋骨の間を広げます.手術した後,切った部分が痛くなるのはここの部分です.その後,肺門部で,動脈,静脈をはがして処理した後,気管支を切って肺を取り出します.

   通常の手術


 一方,最近話題の胸腔鏡手術とは、胸に小さな穴をあけ、先端に小型カメラを装着した棒を入れ,ビデオをみながら腫瘍やリンパ節を切除するものです.長所は手術の傷が従来の方法と比べると小さく,術後の痛みが少ないことです.短所は出血時のコントロールが難しい,二次元的にしか見えないので医師の慣れが必要,腫瘍が大きいと外へ取り出すのが困難で,難しい手術ができないことです.手術のほとんどをビデオを見ながら実施するものを完全胸腔鏡手術と呼びます.一方,手術の半分以上を肉眼で観察しながら,傷を小さくして(約3cm)肉眼で見えない部分を胸腔鏡で観察しながら行うものが胸腔鏡補助手術です.胸腔鏡補助手術の方が安全だと考えておりますので,我々は胸腔鏡補助手術を行っています.胸腔鏡手術の長所は1)傷が小さくて済むこと,2)小さく切るので,切るときと閉じるときの時間は短くて済む,3)傷が小さいため治りが早く2週間程度で退院できることです.短所は,1)出血した際のコントロールが難しいこと,2)胸腔鏡で操作するため,手術に時間がかかる,3)2次元的にしか見えないため,外科医の慣れが必要,4)傷を小さくしているので大きながんは取り出せない,5)高度で複雑な外科的手技が必要な手術は難しいということがあります.

胸腔鏡による手術
 通常のレントゲン検査では異常がなく,CT検査のみで淡い影が見つかることがありますが、これでは手術前にがんと確定できないので,胸腔鏡手術で診断をつけてほしいという内科の要望も増えています.ごく小さながんでは,例えば2cm以下のがんでは75%ではリンパ節転移がなく,1cm以下のがんでは90%はリンパ節転移がありません.また淡い影の腫瘍で2cm以下ならほとんどリンパ節転移がないといわれています.リンパ節転移のない場合には腫瘍のある部分だけを切り取り,リンパ節は切除しない縮小手術という方法もあります.この場合,手術しても肺活量がほとんど失われないので,手術後に息ぎれが現れることがないという利点があります.ごく早肺のがんで,がんが気管支粘膜までにとどまっている場合に,特殊な薬とレーザーを用いた光線力学的治療(PDT)が行われています.これは何らかの理由で手術ができない,ごく早期の上皮内がんの患者さんに例外的に行われています.また三次元放射線治療や高度先進医療として粒子繚治療もありますが,これらはどの程度の効果があって,どのような副作用が現れるのか,現在研究が進んでいます.まだ研究段階ですので,粒子線治療は一連の治療に自費で約300万円かかります.


 集学的治療というのは,手術のみで治療するのではなく,手術に抗癌剤や放射線治療を組み合わせる治療法です.組合せ方には,手術前に抗癌剤や放射線治療を実施する場合と,手術をしてから抗癌剤や放射線治療をする場合があります.手術前に抗癌剤を併用する方法は,少し効果が分かってきていますが,その効果は数%に過ぎずほんのわずかです.その他の組合せは,まだはっきりした効果が判明していません.


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WJTOG市民公開講座収録ビデオ配布中!!

WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.

(平成16年12月1日)