WJTOG図書室 蔵書No.03-3

肺がんと向き合うために 編集 WJTOG広報部 (2004.3.15発行)

「進行肺がんの治療とは」


御注意
 この記録は平成15年11月16日に大阪市のMIDシアターにおいてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が朝日新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-肺がんと向きあうために」の討議録です.内容は平成15年11月16日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告を一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演であり,講演内容が十分に講演者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.

テーマ:肺がんと向きあうために

「進行肺がんの治療とは」
近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門教授 福岡正博

 近畿大学腫瘍内科の福岡と申します.腫瘍内科というと聞き慣れない科のように思われますが,最近はがんの治療を専門にする内科ができてきまして,主に抗がん剤治療を行う医師を指します.
 先ほど,早期の肺がんは5年生存率が70%に達するとのお話しがありましたが,実は手術の可能な早期の肺がんは肺がん全体の4分の1に過ぎません.肺がん患者さんの約75%は進行肺がんで見つかります.それだけ肺がんを早期に見つけるのが難しいということです.進行肺がんとは,単純にいうと臨床病期III期,IV期で、手術できない肺がんです.III期は,がんが胸に留まってはいるものの,縦隔リンパ節や,大血管,食道,気管に大きく広がってしまった状態をいいます.IV期は,肝臓や,脳,骨など他の臓器に転移した状態を表します.このような状態では手術でがんを取り除くことができません.
 肺がんの治療は大きく分けて1)組織型(がんの種類),2)臨床病期,3)一般状態(他人の力を借りずに日常生活が送れるか:がん治療医はパーフォーマンスステイタス(PS)と呼びます),4)心,肺,腎,肝などの生きていく上に重要な臓器の機能,この4つが満たされて治療が決定されます.例えば,1日の50%以上をベッドで横になっておられる方には抗癌剤は使えないわけですね.
 そしてがんの治療には標準的治療と研究的治療があります.標準的治療というのは,EBM(根拠に基づいた医療)によって行われる治療です.一方,研究的治療は新しい治療法を開発するための臨床試験です.標準的治療が確立されるためには,研究的治療が行われて,この治療がいいということが検討されてはじめて標準的治療になります.ですから標準的治療が行われるためには,その前に必ず研究的治療が必要なのです.皆さんは,今から受けようとする治療が標準的治療なのか研究的治療なのかをよく見極めて治療を受けていただきたいと思います.標準的治療と研究的治療でどちらがいいとか悪いとかいうことではありません.標準的治療が進歩していくためには,必ずより新しい研究的治療をしていくことが必要だからです.
 有吉先生の話の中にもありましたが,肺がんの組織型は小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられます.小細胞肺がんは,進行は早いけれども,抗がん剤や放射線がよく効きます.小細胞肺がんの治療の中心は抗がん剤になります.これに対して非小細胞肺がんは,抗癌剤は効きにくいけれども早期に見つけることが可能ながんです.早く見つけて手術をするのがよいわけです.ただ,3分の2の方は手術できない進行がんです.最近は,非小細胞肺がんにも効果のある抗がん剤がいくつかでてきています.限局型の小細胞肺がんやIII期の非小細胞肺がんは,がんが胸の中に限局している状態ですから,抗がん剤と放射線を併用することが有効です.進展型の小細胞肺がんやIV期の非小細胞肺がんでは,いくつかの抗がん剤を組み合わせた併用化学療法が用いられます.併用化学療法をする場合には,副作用は非常に強いけれども効果もあるシスプラチンなどプラチナ属を含む併用化学療法がより効果があります.また抗がん剤に放射線を組み合わせた集学的治療もあります.我々腫瘍内科医は,主にこの抗がん剤と放射線を用いて治療しているわけです.
 肺がんに用いられる抗がん剤には,色々な種類のものがあります.シクロフォスファミド,ビンデシン,マイトマイシンというものが第1世代,シスプラチン,エトポシドが第2世代,イリノテカン,タキソール,タキソテール,ビノレルビン,ゲムシタビンというものが第3世代の抗がん剤です.抗がん剤はそれぞれ効き方も違いますし,副作用も異なります.現在では,第2世代,第3世代の抗がん剤を組み合わせて併用療法を行っています.抗がん剤には様々な副作用がありますが,それを抑える対策も進化してきましたので以前より副作用を軽減できています.例えば白血球が減少すると,熱がでたり,肺炎や敗血症など細菌に感染するわけですがG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という注射を使うことで,白血球減少は防げます.貧血に対しては,現在は一般的に輸血を行いますが,将来はエリスロポエチンという注射によって貧血を防ぐことができるようになります.アメリカではすでに貧血の防止にエリスロポエチンが使われています.また,シスプラチンという抗がん剤を使うと非常に激しい悪心,嘔吐が起こったわけですが,5HT3受容体拮抗剤という薬を使うと,本当に楽になります.皆さんは,「抗がん剤の治療は辛い」という印象を持っておられると思いますが,副作用対策の進歩によって,随分楽に治療が受けられるようになってきました.
 痛みを取り除いたり呼吸を楽にするなどの緩和医療も大事です.痛みが強ければモルヒネを使って痛みを軽くする,腫瘍で気管支が詰まったらステントを入れて呼吸できるようにする,あるいは酸素吸入をする,こういったことも非常に大切なことです.これらが総合的にできる施設・病院が進行肺がん治療に適するでしょう.
 進行肺がんは治りにくい病気ですが、前向きに病と闘う気持が大切です.今日は,治りにくいといわれている非小細胞肺がんでも,がんと闘って頑張っておられる患者さんを紹介したいと思います.1996年に肺がんの手術を受けられたのですが,残念ながらすべてを取り除くことができませんでした.こういう状態を非治癒切除と呼びますが,その後カルボプラチンという抗がん剤と放射線照射を受けられて,肺の方はほとんど治りました.ところが半年後に脳に転移が見つかりました.転移は一つだけでしたので,脳の転移にガンマナイフ治療を実施しました.ガンマナイフというのは,脳の転移巣にいろんな方向から集中的に放射線をあてる治療です.そして,今なお元気で社会的活動をしておられます.この患者さんのように,進行がんであっても諦めないで,前向きにがんと闘って,実際に治っておられる方をみますと,逆に我々医師が患者さんから教えられることがあります.治らないといわれている非小細胞肺がんで手術できない場合であっても,III期の場合,5年生存率が今や20%になっていますし,転移のあるIV期の場合は,5年生存率は5%以下ではありますが,中には治っておられる方もいらっしゃるわけです.治療の効いた患者さんを見ていて常々実感しています.
 最近では,従来の抗がん剤治療に加えて分子標的冶寮も出てきました.分子標的薬は,がん細胞の増殖,浸潤や転移にかかわる分子(遺伝子)の活性を阻害する薬剤で、従来の抗がん剤と比べると正常細胞への作用は少ないといわれており,内服で簡便に投与できます.現在,乳がんに対するハーセプチン,非ホジキンリンパ腫に対するリツキサン,慢性骨髄白血病・消化管間質腫瘍に対するグリーベック,そして非小細胞肺がんに対するイレッサが発売されています.イレッサの代表的な副作用はニキビのような発疹です.一番問題となる副作用は間質性肺炎で、これにより死亡者が出て話題となりましたが、これは全体の3%(死亡は1%)にみられ,他の抗がん剤治療時も含めて十分に注意が必要な副作用の一つです.我々の研究では,男性で喫煙者,もともと肺線維症や間質性肺炎の既往,合併のある方に起こりやすいということが分かってきました.一方,有益な面として20%の人でがんが小さくなり,腺がん,女性,非喫煙者では40%に改善がみられます.実際に、投与3カ月で肺や骨のがんが消えたという患者さんがおられます.ただし,イレッサを内服して本当に延命効果があるのかどうかはまだ研究中です.アメリカやヨーロッパの研究で最初からイレッサと抗がん剤を併用しても効果がなかったという結果がでています.ですから,今は,まず標準的治療を受けて,それが再発したり,効かなかったときにイレッサを用いるのがよいといえるでしょう.
 最後に,大勢の方から質問がありましたが,肺がんにかかったらどうしたらいいか.それには,まず良い病院を見つけることです.よく雑誌や本に良い病院とか名医とかでていますが,果たして本当なのか疑問に思うことがあります.自分自身で納得できるよい病院を選んで欲しいと思います.よい病院を選ぶ目安は,
1)その病院の治療成績が示されていること
2)情報が公開されていること
3)臨床試験を積極的に行っていること(新しい治療法を見つけることに熱心な病院)
4)倫理委員会,臨床試験審査委員会があること
です.また,良い医者を選ぶための目安は,
1)丁寧に説明してくれる
2)質問にきっちり答えてくれる
3)可能性のある治療法を全て説明してくれる
ことです.そして,いい病院といい医者を選んだら,
1) 納得して治療を受ける
2) 文書で同意する
3) セカンドオピニオンを積極的に求める
ということも重要でしょう.

個人または病院で患者さんのために情報提供するために利用するのは構いませんが,書籍,雑誌等への蔵書の無断転用はご遠慮ください.


WJTOG市民公開講座収録ビデオ配布中!!

WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.

(平成16年12月1日)