
肺がんと向き合うために 編集 WJTOG広報部 (2004.3.15発行)
肺がんと向きあうために---パネルディスカッション
御注意
この記録は平成15年11月16日に大阪市のMIDシアターにおいてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が朝日新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-肺がんと向きあうために」の討議録です.内容は平成15年11月16日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告を一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での質疑応答であり,回答内容が十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.
肺がんと向きあうために
パネルディスカッション
第二部パネルデウィスカッションは,肺がんとどのように向き合っていくかを,それぞれの専門家の立場から討論していただきます.
田辺:先程は5人の方からすばらしいお話がありました.特に先生方の話は短い時間の中で内容が多く理解しきれなかった点もあるかと思いますので,もう少し話の内容を解きほぐしながら討論を進めていきたいと思います.すでに会場の皆さんからたくさんの質問をいただいています.今回の質問をみてみますと個々人の個別の話が多いことに気づきました.ただ個別の話というのは,質問の内容のみから正確に対応を回答するのは難しいので,まずは共通の質問からお聞きしたいと思います.
それでは,質問の中から,討論者の先生方に1つづつ質問させていただきます.
有吉先生,女性の肺がんにはタバコと関係のないものが多いという話でしたが,それではタバコ以外に何が原因なのでしょうか.
有吉:そのへんの原因がまだなかなかわかっていないのです.原因がわかれば,それに対する予防法もあるのですが.タバコに関してははっきりとデータがでていて原因であることに間違いがないのです.そのほかに大気汚染や食物の可能性がいわれていますが,どの程度原因となっているのかまだ詳しくはわかっていません.女性の肺がんの殆どが腺がんですので,外的な環境以外に,女性であるが故の身体的状況,すなわち女性ホルモンなどが遺伝子に影響を与えている可能性はあると思います.
田辺:アメリカでは9割の肺がんの原因がタバコで,日本では7割ということでしたが,どうしてこのような差が生まれるのでしょうか.
有吉:いろいろな理由が挙げられています.1つは第2次世界大戦中に日本はタバコの欠乏状態になって,今になってその影響が表れているとか,2つ目には日本では両切りタバコの時代が短く比較的早くフィルター付きタバコが導入されたこと,あるいは日本ではアメリカに比べて喫煙開始年齢が遅い,また,日本では低脂肪の食物が多く,これがタバコの発がん性に影響を及ぼしている,日本人の遺伝子の特徴である,など色々の可能性が言われています.しかし,間違いないのはタバコの影響でして,タバコに関する理由が,アメリカと日本の違いになっていると考えます.
田辺:多田先生には,手術,化学療法,放射線治療の話を図を用いてわかりやすく説明していただきましたが,この中でI期,II期で手術の後に放射線治療をするのは効果がないという話がでましたが,どういうことでしょうか.
多田:手術後に放射線治療をすることがいいか悪いかの比較試験が実施されておりまして,その結果をみる限り,放射線治療の意味はないといえます.ただし,この比較試験には,今となっては古いデータも含まれています.最新の放射線治療で意味があるかどうかは,今後の比較試験の結果をみていく必要があります.
田辺:福岡先生には一番新しいところではイレッサのお話がありました.イレッサは副作用で社会的に騒がれましたが,本来なら他の細胞に影響しないはずの分子標的薬がどうして副作用が現れたのでしょうか.
福岡:がんに関わっている分子を標的にして薬が開発されたという話をしましたが,そういう標的は正常細胞にも多少なりあります.イレッサでは皮疹がよくみられますが,これは正常な皮膚にEGFレセプターという受容体があるためです.また消化管にもありますので下痢が現れることもあります.がんに特有の分子を標的にしているけれども正常細胞にも多少あるためです.もう一つは,EGFレセプターを対象として開発された薬ではあっても,実際にはEGFレセプター以外の部分でがん効いていることもわかってきており,実際すべてが解明されているわけではありません.このへんが当初の予想と異なっている理由です.つまり,いずれの分子標的薬も副作用はあるということですので,「分子標的薬だから副作用がない」という考え方は改めた方がよいと思います.
田辺:我々報道側も,分子標的薬はがん細胞を標的にしており,正常細胞には影響しないと聞いていたために,報道の中で副作用がないと強調されすぎて分子標的薬が安易に使われてしまった面もあるのではないかと考えています.
田辺:江口先生,インフォームドコンセントについて大変丁寧にお話くださったのですが,お話にあったように何項目も説明するとなると,そんな時間が医師にあるのでしょうか.
江口:肺がんの治療法などの話になると急いで話しても30分以上になります.我々は1回の説明で済むとは思っておりません.1回説明して,そのメモを家に持って帰ってもらってよく考えてからもう一度来てもらい,治療法を最終的に決定することもあります.このためある程度時間的な工夫をしております.ただ,これで十分であるとはまだ考えておりません.
田辺:江口先生は言われませんでしたが,実はいくら患者さんにインフォームドコンセントをしても医療費には反映されないんですね.国はそういうところも考えてもらわないといけないと我々は考えています.
田辺:逸見さんはセカンドオピニオンについてお話しいただきましたが,大したものですね.セコンドオピニオンを受けることに徹底されていますね.
逸見:最初はそんなことはなかったんですが,10年かかってやっと公の場所で言えるようになったんです.実は,私自身また同じ状況におかれたとき言い出せるかどうか判らないし,本当にいい先生にどうやって巡り会えるかが私たちにとって難しい問題です.
田辺:何人かの方から,セカンドオピニオンは具体的にどのように求めたらよいのかという質問があったのですが,逸見さんの話を聞けば,「あっ,こんな風にやるのか」とわかるのでしょうね.
逸見:イレッサの話ですが,今イレッサは一錠が250mgという量しかありませんが,休眠療法じゃないけど半分とか4分の1の量で徐々に使うことで治ってるよという話を聞いたことがあるのですが,専門の先生からみていかがでしょうか.
福岡:我々は研究結果により証拠に基づいた治療をしているのですが,そういう研究はなされていませんね.イレッサは125mg以上で効果がみられることがわかっておりますので,現在ある1錠250mgというのが効果のある最低限の量で副作用を最小限にできる量だと考えています.しかしアメリカなどで研究されているのは,イレッサは2日間ほど血液中に残っていますので,副作用のでた人は2日毎に飲むとか,2週間飲んで2週間休むとかいう工夫はされています.これから我々も検討していこうと思います.ただ,量を少なめから増やしていくというのは実際的には難しいです.
田辺:逸見さんから,代替療法とか免疫療法とかという話がでましたが,ここに必ずサプリメントというのがでてくるのですが,キノコのような類のものを,ご主人の場合,お父さんの場合,ご自身の場合に使われましたか.
逸見:主人の場合は使っておりました.ただ次第に飲めなくなってきたために,それが効いていたのか,効かなかったのはわかりません.とにかく当時流行はじめたものを一生懸命飲ませていました.私自身も講演会に行くと色々なものを勧めてくださるので,いただくとまず自分で実験して試しております.
田辺:必ずこの代替療法の質問はでるであろうと思っておりましたが,福岡先生いかがでしょうか.
福岡:患者さんからもよく質問されるのですが,実は,「証拠に基づいた医療」をする上で,代替療法には根拠がないんですね.色々な書物や報道には,代替療法で治った人がいるとか,延命できた人がいたと報じられていますが,集団としてどれだけの数の患者さんに効いたというデータがないのです.いろいろな考え方がありますので,あくまで個人的見解ですが,本当に効くものであれば,国に申請して薬にするはずです.本当に効くものならば厚生労働省も放っておくはずがないと思うのですが.私が患者さんから尋ねられた場合は,「飲むのは自由です.しかし私にはお勧めするだけの根拠は持ち合わせていないので勧めることはいたしません」と答えています.
田辺:有吉先生はどのようにお考えですか.
有吉:福岡先生と全く同じ姿勢です.代替医療というのは,国でも国立がんセンターで調べる方向にきていますし,患者さんの気持ちからすれば「藁にでもすがりたい」気持ちは非常によく理解できるのですが,我々は医師として,医療をしながら「医学という科学」を信じてやっているものですから,やはりきちっとした証拠がない,あるいは証拠をしらないことを患者さんにお勧めすると言うことははばかられるという姿勢をとっています.ですから,証拠のないものに積極的にお勧めすることはとてもできませんし,患者さん家族が自分自身で判断するということが基本になると思います.
田辺:ひととおりお答えいただきましたので,次に個々の質問をしたいと思います.多田先生,手術のことで内視鏡による手術について質問がきていますが,胸腔鏡にしても腹腔鏡にしてもどの程度難しくて,どうなのかという質問ですが,お勧めされますか某大学病院で前立腺がんに内視鏡手術をして死亡した事件が報道されたこともあると思いますが.
多田:完全に内視鏡で手術をするというのは難しいことです.確実に治療するなら,内視鏡ではなくて,大きく開けて手術した方が,確実に,安全に,そしてきれいに取り除くことができます.ですから内視鏡手術を一生懸命やっておられる病院は内視鏡手術を推奨されておりますが,本当は,痛みが伴い傷が治るのに時間もかかりますが,それでも大きくあけてきれいに取るほうがいいと思っています.ただ,患者さんにすると,できるだけ小さい傷で済ませたいというご要望もありますので,私のところでは折衷案として,傷は小さくするけれども中はきっちりと取り除くという方法を採っています.
田辺:実際のところ,内視鏡と普通に手術する場合とでは,痛みとか術後の回復時間とかはかなり違うんですか.
多田:一番違うのは「見た目」です.傷の大きさが違います.では手術の質にどの程度の違いがあるかの言うと,カンナの研ぎぐあい1回分程度のものでしょうか.本当は,内視鏡で小さい傷で手術をした場合と,大きくあけてしっかり取り除いた場合とで,どのくらい確実にリンパ節転移が取り除けているかとか,どちらの手術法が生存率が高いのか比較試験を実施するのがよいのですが,なかなか難しくてそういうわけにもまいりません.これもはっきりしたエビデンスはありません.
田辺:江口先生,今のようなこともインフォームドコンセントでは大きな要素になりますよね.こういう場合にはどのように説明していらっしゃるのでしょうか.
江口:私がはじめに講演しました例題がまさにそのことだと思います.肺がんと診断されて,レーザーで治療するのか,胸腔鏡下で手術するのかの判断で,その言葉がどういうことを意味するのかは,治療する側は何度もその治療をしているわけですから当然わかるのですが,実際に治療をうける患者さんの側は初めての経験なので,インフォームドコンセントに使われている1つ1つの言葉が分かりにくいわけですね.また患者さんが仕事をしている人なのか,主婦なのか,家でほとんど臥床している人なのかによって,選択の条件が変わってくるわけですね.ですから,これは通り一遍の説明だけでは解決しない問題であって,やはり言葉の説明なども含めて治療法を説明することと,説明した後で患者さんの方で質問があれば,さらに詰めていかねばなりません.
田辺:でも,お医者さんがどのように話すかで,選択も変わってきてしまいますよね.「大きく切らないで済ませると傷が目立ちませんよ」というのと,「小さく開けるとがんをときどき見落とすし失敗もするんだよ」というのでは,患者はどちらを選びますかと言われたら,こちらに誘導されますよね.
江口:先程も逸見さんの話にありましたが,何人もの医者に話を聞くのも一法です.それには専門家の話を聞くことが大切です.肺がんであれば,我々内科医の話の他に外科の先生の話も聞いてもらうことによって,次第に自分が求めるものは何かが見えてくると思います.担当の先生の意見で選択がかなり決まってくるというのは実状です.
田辺:逸見さん,今のようにあちらからもこちらからも説明を受けるというのは希有ですよね.
逸見:そうですね,なかなかそういうことはないと思います.多分外科の先生というのは手術したいわけですよね.ですから患者さんが手術に傾くような説明があると思います.ですからうちの主人の場合も,有無をいわせず「はい,手術」というような形になってしまったのだと思います.1つ提案があるのですが,これは厚生労働省は認めないかも知れませんが,先生方は2時間説明しても3時間説明しても無料というかいくらにもならないわけですよね.私たち患者の側が説明に対してお金を支払うようにしてくださいと希望すれば,例えば30分で何点にしましょうということになると思います.そうすれば3時間待ちの3分診療にはならないと思います.ですから,これは多分先生方はなかなか声を挙げにくいと思いますが,私たちも弁護士に相談すれば当然お金を支払うわけですから,それと同じように医療について専門なわけですから,説明に対して報酬を支払うという義務の意識を高く持っていくべきではないかと考えます.
江口:ひとつ追加しますが,ひとつの病院で受診されて説明を受けた際に,ひとつのヒントは,内科の先生,外科の先生,放射線科の先生が合同でカンファレンス(会議)を持って各々の患者さんの検討をしているか聞いてみるのもよいと思います.絶対ではありませんが.多くの肺がんの専門病院は,内科,外科,放射線科、病理などの専門医が集まって個々の患者さんについてどの治療法がよいか定期的に会議をやっているはずです.
田辺:それから逸見さんは先程「代理人制度」というような,先生が聞いたらぎくっとするようなことをおっしゃいましたが.有吉先生,「私は代理人です」といって病院に来られたらどうしますか.
有吉:私自身は,代理人が来ても患者さんが来ても同じお話をする用意ができております.やはり臨床的最終的判断というのが三つの大きなファクターがあると思います.ひとつは先程から皆さんがおっしゃっているように事実に基づいた医療,根拠のある医療という形で患者さんの病態をどう判断するのか,その判断によってこうあるべき治療というのは大体決まってくると思います.それが一つ目のファクターです.もう一つのファクターは,やはりこれは人のファクターでありまして,患者さんの性格とか考え方あるいは主治医の考え方,これも一つの大きなファクターになります.そしてもう一つは社会的,地域的な問題ですね.例えば,東京の方と鹿児島の方で,そこで行われている医療というのが,本来は差がないはずですが,いろんな考え方,社会の考え方があると思うんですね.そういうものがトータルした形で最終的な結論がでるわけです.そこのところで先程から逸見さんがおっしゃっておられるセカンッドオピニオンが入ってきます.やはり,色々誘導というのが先程からでてきていますが,それは多分に医師の好みとか判断にはある程度の偏りというのは人間社会では仕方のないことです.そういうところにセカンドオピニオンの意義がでてくると思います.ですから私が患者さんにお勧めするのは,絶対に自分の考え方をきちっと持っていただきたい.自分の死生観というのをきちっと持っていただいて対応するというのが基本にないと,やはり医師に誘導されるということも起こるでしょうし,基本的なインフォームドコンセントの時にお任せ医療になってしまうと思います.
田辺:先程逸見さんは「外科医は切りたくて切りたくてしようがない」と言っておられましたが,外科医の多田先生,いかがでしょうか.
多田:確かに昔は切りたくてしかたがないというお医者さんは多かったと思います.ただ最近はすべてがそうではありません.かえって最近は医療過誤という問題もあって引っ込み思案に陥っている外科の先生もいらっしゃるように感じます.切りたい医者,切りたくない医者いろいろいるのが現状です.他の病院で進行して手術ができないと言われて私の病院に来られて,何故手術できないのかなと疑問に思う場合や,当然とても手術できない状態なのに手術をしてほしいと来られる患者さんもいます.今はガイドラインもできましたので,様々な状況をどのように標準化していくのか,医療のレベルを全国一律にしていくために努力していくことが今後の課題だと考えています.
田辺:今日のお話の中ではでてきませんでしたが,腫瘍マーカーについて二人の方からご質問があるのですが,肺がんの場合も腫瘍マーカーはあるわけですよね.
有吉:これまでがんの診断がレントゲンとか超音波検査とかカメラの検査とか,いわゆる目で見る診断が1つあり,もう一つがんも人間の体の一部になっているわけですからがん細胞が生きているという証で機能しているわけですね,そうしますとがん細胞が作っている物質というのがありますが,それが血液の中にでてくる,それを見つけることによってがんの診断をするということがあり,これが腫瘍マーカーという考え方です.一番よく皆さんに知られている腫瘍マーカーは肝臓がんのAFPというのがありますし,最近では前立腺癌でPSAという物質を見つける方法があります.特に前立腺がんではこれでかなり発見されておりまして,平成天皇もこれでがんが見つかったという経緯があります.ただ問題は陽性にでているから本当にがんであるのか,つまりがんに特異的なものかというと色々問題があります.ですから腫瘍マーカーが陽性だからすぐにがんだとは結びつかないと思いますので,ある一定のレベル以上になったら本当にがんなのかどうかということをレントゲン検査や超音波検査で探すべきでしょう.陽性にでていてもがんでないこともありうるということを皆さん,よく知っておいていただきたいと思います.なぜかというと,人によってがんでなくてもそういう物質が血液の中に増えている場合があります.その値がかなり高ければがんである確率もかなり高いという考え方を持っていただきたい.もう一つは,陰性だからとか正常だからといってがんでないという考え方もできない,これが答えです.ですから今のところ前立腺がんの腫瘍マーカー以外では,言えることは進行がんの場合は陽性になる可能性が高いが,早期がんの場合は腫瘍マーカーからがんを見つけることはなかなか難しい,こういうことだけは覚えていていただきたいと思います.
田辺:それから,肺がんも含めてがんの遺伝はどうなのか,近親者にがんが多いとがんになりやすいのかという質問です.
有吉:私どもは実際,兄弟が3人いて3人とも胃がんだったようなことを経験するのですが,それを遺伝学的に,つまり学問的に証明することはまだできていないと思います.かなり特殊な例でがんが多発するという家系はわかっています.あくまでもある種の特殊な遺伝子の検査で判ることでして,通常「あそこの家系は胃がんの家系だとか,肺がんがよくでる」というのは世間でしばしば言われることですが,それを学問的に証明するまでには至っていません.ある家系でがんが多発するという事実はあると思います.ですから何年か後に遺伝に関することも判ってくる可能性はありますが,今の時点では肺がんの家系だから肺がんになりやすいといえるだけの学問的根拠はありません.
田辺:福岡先生,抗がん剤で外国では使えるようになっているのに,日本ではまだ使えないというような話がありますが,こういうことは,今はだんだん少なくなっているのでしょうか.
福岡:まず肺がんに関して言えば,現在外国で使えて日本では使えないという薬はなくなりました.これは有吉先生が大分苦労されまして,数年前にかなり見直しをされて厚生省に申請して増えたものもあります.実際はそれ以前から使っていたわけですが,厚生省に認められたことによって公に使えるようになりました.おかげで現在,外国で使えて日本で使えないという抗がん剤はありません.さきほど講演の中でエリスロポエチンという薬の話をしまして腎不全には使えるけれどもがんには使えないという一部の薬がありますが,抗がん剤に関しては,肺がんではそういうことはなくなりました.ただ大腸がんなどではまだ使えない薬がありますので,いま急いで臨床試験をやっているというところです.臨床試験(*注),新しい薬の場合は治験といいますが,この臨床試験を経ないと薬というのは認可されないんですね.そういう意味で臨床試験が重要であるというのは一般の方々にも解っていただかなければならないです.臨床試験を経ることによって初めて承認されていくわけですから単にアメリカで使われているから日本でも簡単に使えるという訳にはいかないことをご理解いただきたいのです.
(*注:臨床試験とは,実際に患者さんに治療を行って,効果と安全性について調べるものである.多くは,既に発売されている薬同士,あるいは薬と放射線や手術との組みあわせで,新しい治療法を開発するもの.これに対し,治験とは,新しい薬で,国に製造・発売の認可をしてもらうための臨床試験で,予想外の効果や副作用がでることもある)
田辺:逸見さん,外国で使われていて日本で使えない薬があるというのは患者からすればそれでいいのかという感じがありますし,その一方で,臨床試験に協力してくださいといわれるとちょっと不安なのが事実ではないでしょうか.
逸見:最近新聞を見ますと治験に協力してくださいという広告をよく見かけます.一面広告ででていますが,本当にこういう広告で協力される方がいるのかなあと疑問に思います.先日講演会の際にある方から「逸見さん,わたしは余命あと3年といわれて,治験の段階の新しい薬があるからただでやってあげるといわれたのよ,でも私は実験台になるのは嫌だから,別の方法でやってみたいからあなたの本を全部買うわ」と言われたことがあります.そう言って私の本を全部買ってくださった患者さんがいますけれども,このように自分から積極的に治験に参加するというのは難しいですよね.
田辺:それは,結局お医者さんが信用できないということですかねえ.
逸見:それと,どうなるか分からないわけですし,命は一つしかない訳ですから,どうなるか分からないものに賭けるとうい勇気はなかなかでないということではないでしょうか.
田辺:福岡先生,これは何か一言言わないと.
福岡:もちろん治験に参加することによって不利益を受けるということはあってはならないことです.そこで,例えばがんの患者さんで「標準的治療をいろいろやったけれども,ついに効果がなくなって使える薬がなくなりましたが,新しい薬があって今臨床試験をやっておりますが参加してみませんか」という段階になるわけですが,そのメリット,デメリットを十分に聞いて,納得した上で受けるべきことなのです.しかしながら,新しい薬は効果があるのかないのか全く分かりません.しかしながら,わたしどもも,例えばイレッサの場合でも最初は,多分効果はないだろう,なぜなら分子標的薬は副作用は軽いけれどもがんは小さくならないからと思っていたわけですけれども,そうして臨床試験を始めました.患者さんも副作用がないのだったら受けてみてもいいんじゃないかという方が多かったと思います.しかしやってみると2番目か3番目の患者さんで思わぬ効果が出たんですね.こういうこともあります.したがって,もちろん標準治療があるにもかかわらず治験に参加してくださいということはありませんけれども,もう治療がなくなったときに新しい薬を試してみませんかということは,やはり患者さんにとって数パーセントかもわかりませんが,メリットがあるということを我々が説明したときに理解をしていただくとういうことしかないと思います.そういうところから新しいいい薬が生まれているということも事実であります.がん以外の薬ではそれほど副作用はないと思いますが,がんの薬ということになりますと副作用と効果の兼ね合いということになりますので大変難しい選択にはなりますが,そういうことに理解を示していただいて初めていい薬がでてくるということです.
田辺:逸見さん,納得できますでしょうか.
逸見:はい,よくわかりました.納得しました.この話は納得しましたけれども,じゃあ自分でやるかなというと,その時々の状況に応じてよく考えてみたいと思います.
田辺:江口先生,これは皆さん全体の問題かも知れませんが,肺がんというのは色々な治療を組み合わせても治療成績がよくないですよね.これは発見が遅いということなのでしょうか.何をやればもっと治療成績は上がるのでしょうか.
江口:確かに胃がんや子宮がんと比べても,肺がんというのは検診で早期の肺がんを見つけにくいということはあります.また抗癌剤や放射線の効きやすさなども、小細胞癌と非小細胞癌では差があり,治療成績には、多彩な要素が絡んでいる訳です.今お話があった早期発見ということですけれども,2,3年前に厚生省研究班による各種がん検診の総合評価という報告がありました。それによりますと胸部写真での肺がん検診は、非常に精度の高い検診団体ではある程度肺がんの死亡率を改善することに寄与する可能性があるけれども,日本全体の肺がん検診をみるとその成績はいまひとつということなんですね.ですから今の検診の状況というのは,もっと新しい肺がん発見の方法論を開発すべきだということがいわれています.ご承知のように被曝線量を下げた胸部CTというものが実験的に検診の場に導入され,小型肺癌が沢山発見されています。おそらく数年後にはこういう方法論が本当に肺がん検診に役に立つかどうかの結論がでてくるだろうと思います.ですから早期発見という面では私たちがこれから努力していかねばならない面はたくさんあると思います.
田辺:多田先生,手術は早期の肺がんでないと難しいですね.
多田:そうですね.ある程度進行した臨床病期III期の患者さんで手術の意義があるかどうかということは色々なところで臨床試験が行われていますので,もう少しその比較試験の結果を待たないとダメだと思います.一部の患者さんには,手術と抗がん剤を組み合わせるというような集学的治療のメリットがあるという感じはもっています.
田辺:患者の立場からすれば,がんだとわかったら「はい,治りますよ」といわれるのがいいわけですが,見つかったけれども治らない,亡くなるというのであれば,いつまでもそうだと悲しくなりますから先生方には是非頑張っていただきたいと思います.
それから,ご自身あるいはご家族が肺がんということで切々たる質問がありますが,その中で手術をした後,あるいは化学療法をやっている最中,生活上の注意というものがあるのかという質問がきています.多田先生,手術後にこうしたらいいとか,これはいけないとかいうことはあるのでしょうか.
多田:大半の方は,手術の後は普通の生活をしていただいたらいいと思うのですが,基礎疾患として肺の悪い方が肺の手術をされた場合,肺炎などを起こすと致命的となることがありますので,そういう患者さんに関しましてはできるだけ風邪を引かないようにするとか,インフルエンザにかからないようにするという注意が必要だと思います.それ以外はタバコを止めてもらうということぐらいですね.
田辺:それから運動していいのか,歩く距離に制限はあるのかという質問がありますが.
多田:歩くということは全身運動になりますし,それで呼吸運動が促進されます.大きな呼吸をするというのは,痰を出しやすくなり,痰が貯まらないことによって肺炎を予防するというメリットもあります.負担にならない程度に散歩するとか軽い運動をするというのは大切なことだと思います.
田辺:有吉先生,肺がんで薬の治療例えば抗がん剤の治療をしているときに注意しなければならないことはあるでしょうか.
有吉:患者さんが生活上の注意をすることがどれだけ予後(あと何年生きられるかということ)に影響するかというデータはでていないのですが.一般的によく言われることは,免疫力を高めておけばいいという話がいわれます.ですから基本的に睡眠不足にしないとか,あるいは疲労をしないとか,このようなことは日常生活の中で心がけておかれた方がいいと思います.データがあるわけではないですが,一般論として我々が患者さんに言っていることです.それから大切なことは生活をどれだけ楽しむことができるかと言うことでして,最近よくいわれていることは,自分が幸せだなと思う生活が多いほど免疫力が高まるというようなことが言われていますので,やはり生活を楽しむという気持ちを,病気の治療においても家庭での生活でも持ち続けるということが非常に重要なことだと思います.
田辺:逸見さん,先程生きがい療法の話をされていましたが.
逸見:はい,本当に生きがい療法というのは免疫力が上がるということの実践だと思うのですけれども,私は2000年8月に新聞でも報道されましたががん患者さんとともに富士山に登ってきました.伊丹先生が提唱していらっしゃいますが生きがい療法ということで,アメリカのがん患者さんと日本のがん患者さんが500人で一緒に登っていきましょうということで,そういう計画を耳にしまして是非一緒に登ってみたいということになりまして私も登らせていただきました.本当に勇気もいただきましたし,希望も湧きました.そんなことを踏まえながら今年は,私の雑誌の中でニュージーランドに一緒に行きましょうという募集をしましたら28人が応募してまいりまして,今年の1月18日から1週間ニュージーランドに行ってまいりました.ニュージーランドはマイナスイオンが豊富といいますか太古の氷河期のものが残っていまして,氷河期の氷の溶けたものがシャワーになっていましてそのシャワーを浴びると,マイナスイオンでとっても元気になったというお話も伺ったものですから,是非そこへいってみましょうということで,生きがい療法ということで行ったんですけれども,本当にがん患者さん,知らない方ばかりだったんですが1週間いるうちに元気になりまして,そしてとっても仲良くなりました.今は文通をしたりしているんですが,やはり来年はこんなことをしてみたいとか,もっとこんなことをしてみたいわというような夢をもつと,やはりNK細胞ですかキラー細胞が活性化されるというようなことが実証されたような気がします.
田辺:江口先生,今のような話に関してどうですか.
江口:やはり,何か目標を持って毎日生活するというのは大事で,逆にそういうものがないと今後の見通しについてお医者さんとも話せないとか,自分の中でなかなか考えることができないとかということになります。目標がないと普段の療養生活がなかなかうまくいかないものです.それと,大分次元の違う話かも知れませんが,外来をしていて気づくことなのですが,他の科,例えば皮膚科とか整形外科とかかかっていることをお話にならない患者さんが多いんですよね.抗がん剤で化学療法をやっているとか,何か薬を飲んでいるということは,薬物の相互作用とか,思わぬところで落とし穴がありますから,例え関係ないと思っても,他の薬や治療のことはお話しいただいておいた方がよろしいと思います.逆にこちらで受けている抗がん剤の名前などはメモして持っていただいて,近所のお医者さんにかかるときもそういうものを出していただくと,そのお医者さんもよくわかるということで,患者さんも医師も情報の交換が重要だと思います.
田辺:先程の生活上の注意ということを是非気をつけていきたいと思います.福岡先生,生きがいとか免疫療法というところではどうでしょうか.
福岡:講演の中でも話しましたように,非常に前向きに考えておられる方に病気を克服しておられる方が多いですね.他の先生方も逸見さんもおっしゃっていますが,明るく,あまりくよくよ考えないようにすることをいつも患者さんに言っています.くよくよ考えてもがんになってしまったものはしかたのないことなので,あとは前向きに考えてチャレンジしていただきたいのです.そして明るく,旅行もし夫婦で助け合って,病気をしてからの生活が楽しかったと言えるようにしてほしいです.これが病気にとっても非常にいいことだと思います.
田辺:先程,臨床試験を受け非常によい効果がでた方も,そのように前向きな方なのでしょうか.
福岡:そうですね,非常に前向きで治したいという気持ちと,あまりくよくよ考えないという人が多かったです.
有吉:ひと言その問題に付け加えさせていただきたいのですが,この間あるラジオを聴いておりましてこれから患者さんに勧めようと思っているのですが,がんの患者さんの多くは自分を主観的にすべてをみますから非常に悲観的になってしまう.そこでものごとを書くということは自分を客観視するという意味で,つらいことから抜けることが可能である.逸見さんも本を書いていらっしゃいますけれども,皆さんももしがんの患者さんがまわりにいらっしゃったら日記でも何でも結構ですから少し自分を客観視する意味で,文章など自分のことで結構ですから書いてみることを勧めるのが役に立つのではと思います.今後少し患者さんにお勧めしようと思っておりますので,是非一度試してみていただけたらと思います.
田辺:ありがとうございました.時間がきましたけれども,患者もがんを勉強しなければいけないわけですが今日は大分勉強になったのではないかと思いますけれども,逸見さん,皆さんにがんの勉強のために,何かおっしゃりたいことはありますか.
逸見:とにかく,こういう偉い先生にお目にかかって親しくなりましょうと申し上げたいです.親しくなるとやはり聞きやすくなりますから,そうしたら自分の病気も治るんじゃないかという気がしますので,大いに親しい医者を見つけようというか,仲間を増やそうなんてことを言いたいと思います.
田辺:はい,ありがとうございました.肺がんと向き合うということで,今日は大分肺がんと向き合って勉強したなあと私は思います.皆さんも,まず肺がんにかからないように,タバコと止めるとか,肺がんにかかっても早く見つけるとか,さらに早く見つからなくてもいい先生のところへ行く,というようなことで,がんを克服していただきたいというふうに思います.本日は皆さん,長いことお付き合いいただきありがとうございました.先生方,どうもありがとうございました.
(拍手)
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(平成16年12月1日)