
WJTOG肺がん市民公開講座 in 北九州 −肺がんになったらどうする?− 編集 WJTOG広報部 (2006.11.11発行)
“肺がんにならないためにー予防は禁煙から”
御注意
はじめに
この記録は平成18年9月3日に北九州市の国際会議場においてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が西日本新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-〜肺がん患者さんと向き合うということ〜」の討議録です.内容は平成18年9月3日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告と一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演と質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.
“肺がんにならないためにー予防は禁煙から”(産業医科大学 吉井千春)

今日はタバコと肺がんのお話を前半にいたしまして、後半はタバコをやめるための情報についてお話したいと思います。
まずは能動喫煙、要するにタバコを吸うことによって死亡する患者さんの数です。日本の報告ですが、1950年から2000年までの50年間の間で、男性女性ともに右肩あがりに増えています。これは超過死亡数といいましてタバコを吸わなければ、死ななくてすんだ人です。2000年現在で114,200人、今ですと13万人くらいです。これは何を意味するかといいますと、実は1960年代にタバコを吸うと肺がんになる、タバコはからだに悪いということが世界的に知られていたわけですけれども、その直後、70年代からタバコ対策をとりはじめたアメリカやイギリス、オーストラリアという国は1990年代にはいってこういった死亡率がどんどん減ってきました。日本は、タバコ対策がそれらの国とくらべて30年から40年遅れているために、いまだに右肩上がりの状態が続いています。これは肺がんだけではなく、他の肺気腫ですとか心筋梗塞とかタバコの関連する全て含めてのお話です。

がん全体について、がんの要因としてどういったものが重要かというお話です。これはアメリカでの推計死亡率ですが、全ての先進国にあてはまります。がんの死亡の原因として大きく三つにわけられます。タバコが3分の1、それから食べ物が3分の1、それからその他の諸々の要因が残る3分の1ということになります。がんの死亡の原因の中で、努力して減らせる部分があります。職業要因といったものは努力して減らせる分もあり、タバコも喫煙対策をとることによってかなり減らすことができる要因です。食事の方は頑張ってもあまり減らせませんが、タバコは喫煙対策を行うことで、がんを大きく減らすことができます。

肺がんに限らず全てのがんについて、喫煙者と非喫煙者、それぞれががんになった場合の原因としてどういった要因が重要かといいますと、タバコを吸っていることが原因の6割になっています。非喫煙者の場合は、もちろんたばこは吸っていませんので、食生活とか肥満があるでしょうが、その他の中にはたぶん受動喫煙もあると思われます。

今度はがんを臓器別に個別にみて、喫煙とのかかわりをみてみます。喉頭がんが一番、喫煙との関連が一番強くて96%です。肺がんももちろん大きく72%が、咽頭・口腔がんで61%、食道がんが半分というふうに続いております。消化器系のがんも全く関係ないわけではなくて、タバコを吸ってそれが、唾液の中に有害物質が入って飲み込まれて、からだに吸収されるわけですから、膀胱がんもすべての臓器のがんは何がしかの、タバコの影響を受けています。


私が学生だった時代は肺がんの中で、扁平上皮がんと小細胞がんはタバコによるがんであるが、腺がんはタバコとは関係ないがんだと教わりました。たしかに非喫煙者ががんになる場合は、ほとんど腺がんというタイプが多いのですが、非喫煙を1として、途中でタバコをやめた人、今吸っている人をみると、今まで吸ってきたたばこの量をみると、扁平上皮がん、小細胞がんでは20倍、25倍というふうに極めて高いですが、腺がんといえども発生率が高くなっています。タバコを止めると年数を追うにつれ肺がんになる確率が減ってきます。

一般論ですけれども1日に吸うタバコの本数×喫煙年数、この掛け合わせの数値を喫煙係数といい、例えば1日20本、30年間吸い続けた場合20×30=600になります。この数値が600を超える人は、肺がん発生の高危険群というふうに言われています。
タバコは悪いけれども、軽いタバコにすれば大丈夫かと言われる方もおられます。この中にもタバコを持っている人が何人かおられる方かもしれませんが、マイルドだとかライトというような名称がついているタバコをじっくりご覧になってください。タバコのフイルターの部分に小さな穴が平行にならんで開いています。いわゆる軽いと言われるタバコほどこの穴がたくさん開いています。それでニコチンが何ミリグラム、タールが何ミリグラムという表示が書かれているわけですけれども、これを決める測定法というのは国際的に決められていまして、非現実的なやり方ですけれども、口をつけるところに機械がついていて、1分間にたった2秒間だけ、しかも35ml吸引するという、ちょっと口をつけた程度の吸い方で何ミリグラムと決めているわけです。こういったタバコはフイルターのところにたくさん穴があいているんですね、ですから、タバコを吸ったときに空気が一緒に入ってきて、それで薄まるわけです。
喫煙者というのは自分が満足するまでニコチンの量を吸い込む癖というか、そういう反応が反射がありますので、無意識のうちにこの穴を唇でふさいだり、あるいは指で押さえたりしますし、あるいは薄まったタバコは深く吸い込むというようなことをします。ですからタール量の表示がこのように、低タールから中間タール、高タール、超高タールというふうに記載があっても、実際肺がんで死亡するリスクというのはタールやニコチンの記載が何ミリグラムと書かれていようとほとんど関係ありません。騙されてはいけません。


次に受動喫煙の問題、他人のタバコでどうなるか、がんが起こるのかということです。よく一般的にタバコは喫煙者本人が吸う主流煙に比べて副流煙のほうが良くないというふうに言われています。実際流れていく方のタバコの煙の方が発癌物質、アンモニア、一酸化炭素、カドミウム、タール、ニコチンそういったもの全てが多く出ています。ですけれども、これは出た瞬間に空気で希釈され薄まりますので、やはり肺がんその他のタバコの害というのは喫煙者自身に起こりやすいことになります。しかし、タバコを1本吸うとだいたい半径7mに渡ってタバコの煙というのは漂い、もし風下であれば15m、30mになります。非喫煙者が少しでもタバコの臭いを感じたら、その瞬間から環境基準を超えた有害物質がこの人に達しているというふうに考えてください。一般的には横で10本吸われたら1本分、非喫煙者が吸ったことに、吸わされたことになります。すでに1980年代から受動喫煙が肺がん発生のリスクと報告されています。

家庭内で夫がタバコを吸った場合、奥さんがどれだけ肺がんになるかという、いろんな国からの報告ですけれども、夫が吸わない場合を1とすると夫の喫煙する本数が増えるほど右肩上がりに奥さんの肺がんのリスクというのは上がってきます。これは家庭内だけではなくて、職場の喫煙状況も全くこれにあてはまります。ですから職場で喫煙対策がとられてなく、全く野放しの状態であるとこれと全く同じ現象がおこります。

もう肺がんになっちゃったから、遅いから、今更禁煙しなくてもいいというわけではないというお話をします。例えば、肺がんになって手術をするという時に、タバコを吸ったまま手術にのぞむと、タバコを吸わない人が手術をしたときの合併症に比べると、直前まで吸っていることで術後の肺炎の発生率が上がったり、治りが遅いというようなことがあります。ですからなるべく早くタバコをやめるに越したことはありません。

タバコを吸うと、実際傷の治りが遅かったり、感染したりしますというデータです。タバコを吸わない人を1としますと、感染のおこる可能性が2倍から3倍に、それから傷の、皮膚の治りが悪くて腐ってくるような可能性が数倍、表皮の剥離が起こる可能性が数倍というふうに上昇しております。抗がん剤治療にしても、放射腺にしてもどんな治療でもそうですけれど、治療をやっている間は、そういった合併症が起こらないために、必ずいつやめても遅くないので禁煙をしてください。

それからもうひとつ、今のがんが治療中であったり、治ったりしても、今後タバコを吸い続けているとまた第二のがん、また第3のがんというのが起こりうるわけです。最初に肺がんができて、それからタバコを吸い続けた時に、その後の第2のがんが出来る割合は、タバコをその時点でやめると、2年後、4年後、5年後、10年後と徐々に下がってきます。ですから折角いい先生に切ってもらったり、放射線で焼いてもらったりしても、こういった努力をしなければ水の泡になります。うちの病棟は呼吸器内科ですので入院してくる患者さんに対しては全て禁煙、タバコを吸うことの許可はしておりません。そして持ち込み自体を禁止しております。

次にタバコをやめるための情報です。ちょっと話が飛びますけれど、何々依存症(これは精神科領域ですが)というものは、それの専門的な精神科領域の世界的な診断基準があります。これには6つの項目がありまして、例えばこの、
1番目に、何々したいという強い要望、あるいは切迫感がある、この何々というところを喫煙という言葉をいれてみればわかります。
2番目に喫煙の開始、喫煙の終了、あるいは喫煙量をコントロールすることが困難である、
3番目に喫煙の禁止に伴い離脱症状、禁断症状が出現する。
4、耐性、だんだん量が増えていることが認められる。
5、喫煙のため、それに代わる楽しみや興味を次第に無視するようになり、禁煙している時間が長くなる、
6番目は有害な結果が起こることが明白だという証拠があるにも関わらず、依然として喫煙する。
この6項目中、3項目以上ですね1ヶ月以上にわたって続いていると、何々依存症という病名がつきます。ですから、タバコのことをちょっと考えてみると多分1番と3番と6番がかなりの喫煙者にあてはまることではないかと思います。


そういうことで医学的には、喫煙はニコチン依存症という病気であって、喫煙は依存性があるものですので趣味や嗜好というものではありません。吸わせられている依存症です。ですが、絶望的な病気というわけではなくて、再発しやすいけれども繰り返し治療することによって完治しうる慢性疾患だというふうに定義されています。

ニコチン依存症という病気は心の依存と体の依存の両方が複雑に絡み合って成り立っています。身体的依存というのは、後でお話しますニコチン代替療法、置換療法なんかで禁断症状を和らげるような治療をします。むしろタバコのニコチン依存の難しいのは心理的な依存の方で、この話をすると1時間かかるんですけれども、認知の歪みという、こういったものが複雑に絡み合っていますので、こちらのほうは例えば禁煙外来とご自身で努力するか、あるいは禁煙外来でカウンセリングを続けながらいい方向にもっていくことになります。

ただタバコは体に悪いとわかってはいるけれど、なかなかやめられない。タバコにはひとついいことだったあるじゃないか、ストレスも解消するしリラックスできるとおっしゃられる方もいます。ニコチン依存の本体というか非常に大事なことはタバコを吸うということは、体の血中のニコチン濃度をその人が満足するニコチンのレベルに維持することです。少なくてすむ人もいれば、多く必要な人もいる。タバコを1本吸うと、ニコチンが体に入って、急速に血中ニコチン濃度が上昇し、非常にいい感じになるわけですけれども30分、1時間たってくると体のニコチンが切れてくる。そして満足するレベルを下回ると、たばこを欲しくなったり、イライラしてくるんですね。そこでまた、もう一本吸うとすっきりする。結局どんどん吸う。これがまあ依存性というか習慣化してくる要因なわけです。問題は満足するニコチンの血中濃度が上がる瞬間が、あたかも、このイライラというか色々な日々感じているストレスを改善させるように感じる、錯覚に陥ることです。だからなかなやめられないわけですね。

ですけれども結局そういうふうに考えると、タバコを吸うということは、まずニコチン切れのストレスというもう一つ余分なストレスを持ってしまうことになります。それからあと一般的なストレスとしては、健康の不安があるでしょうし、経済的なこともあるでしょうし、タバコ切れを心配するストレス、それから場所を探すストレス、周囲との関係のストレスそれから、仕事によってはタバコを吸っていること自体が周囲から圧力がかかる、それから自己嫌悪という、いろんなストレスを抱え込むわけですね。

だから決してタバコがストレスを解消するとかいうものではなくて、もしタバコがストレスを解消するいいものであれば、こういうことにはならないわけです。またタバコを吸う人ほど吸わない人に比べて自殺者が多い、これは海外においても日本でも言われております。だから決してストレスを解消するなどという効果は、ないということを肝に銘じておいてください。

ここで、今、世の中で混乱している禁煙治療がこの4月から保険で出来るようになったという話を致します。これは、全ての病院でそれが出来るかというとそうではありませんので、現場では混乱が起きています。厳密な禁煙の保険診療できるという病院の基準があります。これが4つありまして、ひとつは禁煙治療の経験を有する医者が1名以上いる。専任の看護師が1名以上いること。呼気の一酸化炭素濃度装置を備えていること、このあたりはなんとかなるんですけれど4番目の保険医療機関の敷地内が禁煙であることという条件が問題になっています。産業医科大学でも2000年から禁煙外来をやっているんですけれど、まだ敷地内禁煙ではありません。もしそれがクリアしたにしても精神科病棟とか緩和病棟なんかは病院機能評価では喫煙室は認められており、ここがある以上は保険診療できる病院としてはクリアしないわけです。

4月からだいぶ経ちますけど、北九州市内の病院・医院で禁煙の保険治療ができる病院というのは、日本禁煙学会というホームページを数日前に調べると、まだ12箇所しかありません。主に院長の気持ち一つで敷地内禁煙ができるようなところばかりですので、クリニック、医院が中心になっております。
だからまだこういう寂しい状況です。このような病院で保険診療ができるわけですけれど、ただこれだけではなくて、患者さん側の条件というのがあって、こうこうこういう条件をクリアした人だけが5回の禁煙治療に関して保険がきく、保険診療ができるという、非常にまだまだハードルが高い状態です。
私達の病院は、自由診療でやっていますし、保険診療と自由診療を両方患者さんによって分けてやっているような状況であります。

実際、禁煙の治療にあたって、身体的依存を和らげる目的でニコチン置換療法、代替療法というのを行っております。ニコチンガム、これは薬局で購入することもできますが、パッチは病院から処方をして、これが保険がきく場合ときかない場合があります。ガムの方は、タバコが吸いたくなったら噛んで対応するということで急な喫煙欲求に対応することができます。ですけれども美味しくないガムですし、噛むことがむずかしい人もいます。パッチのほうは非常に簡単で、高いニコチンの血中濃度を維持することができるのですけれど、かぶれの問題もあります。ですから一長一短ありますので、こういうものを組み合わせて身体的依存に関しては治療を行います。

パッチを使った治療については、標準的な治療としては大、中、小、4週間、2週間、2週間、1日1枚24時間貼って、ニコチンが皮膚から吸収されて、それでニコチン切れのイライラを抑えつつ、この間に心理的依存の分をカウンセリング等で解消しながら治療していくというやり方であります。
禁煙を実行している最中に一番重要なことはまず禁煙が先にあって、パッチとかガムはその離脱症状を抑えるためのものであるということです。勘違いされては困るのですが、パッチやガムがタバコの本数を減らすというふうに思ってはいけません。パッチを貼っている場合には、パッチからニコチンが出ていますので、その状態でタバコを吸ってはいけません。タバコは徐々に減らすのではなくて、一気にやめるものです。節煙という本数を減らすのは、からだのニコチン濃度が非常に低い状態が続くだけであってただ生殺しの状態で、最終的な禁煙には結びつきません。

禁煙をおこなっても、強い喫煙衝動にかられることがあります。そのときは冷たい氷水とかお茶とか、歯磨きとかたたくとか、これは発作と呼んでいるんですけれど、何か刺激を与えてやることによってまた数分から10分たつと嵐のような発作が通り過ぎていきます。その他、口寂しさに関しては、禁煙パイポですとか、ガムだとか、歯ブラシだとかそういったもので補います。それからなるべくタバコや喫煙者や喫煙するような場所を避ける。また、うまくいっているようだけども1本だけという誘惑があります。1本だけ吸ってしまうとまた、ニコチンというのはタバコの依存症ですので元の本数に戻りますので、これは絶対禁じています。それから失敗しても、気にせずにまた続ける。私がやっているような自由診療の禁煙外来では何回来ても、自由にやっていますので740円の再診料だけ払ってもらってずっと失敗された話を私もじっと聞かせてもらって、とことん治るまでといいますか、禁煙が達成するまでつきあっています。


本日のまとめになりますけれど、今日のお話は、タバコはがんの最大の原因であるということ。能動喫煙も受動喫煙も肺がんの原因である。軽いタバコといえども危険である。いつから禁煙しても遅くありません。喫煙はニコチン依存症という病気で治療が必要なのです。喫煙することがストレスを増大させます。以上です。ありがとうございました。

個人または病院で患者さんのために情報提供するために利用するのは構いませんが,書籍,雑誌等への蔵書の無断転用はご遠慮ください.
WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.
(平成18年11月11日)